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地域熱供給
冷水や温水、蒸気といった熱媒を製造する各種の熱源設備と、作られた熱媒を供給する設備が集中管理されている熱供給プラントから、一定地域内の建物群に地域導管を使って供給し、冷房、暖房、給湯などを行うシステム。個々の建物で熱源設備を持つ必要がなく、高効率な運転や個別建物では利用が難しい再生可能エネルギーなどの活用が可能なことから、省エネルギーや環境負荷低減の効果も期待できる。
© 林宏之
地域へ熱エネルギーを供給し、建物の空調や給湯を支える
我が国では、国際競争力強化の観点から、大都市を中心に官と民が連携して市街地の整備を推進し、魅力ある都市づくりを進めていくことを目標の一つとしています。そうした中、都市開発の一環として各都市において取り組まれているのが、地域熱供給と呼ばれるシステムの整備です。地域熱供給とは、建物の空調や給湯などに用いられる熱媒(冷水や温水、蒸気など)を地域でまとめて製造し、供給するシステムのことです。製造された熱媒は、導管を通じて地域内の建物群に供給されます。建物ごとにボイラなどの熱源設備を設置して熱供給を行う方式に対し、一カ所の熱供給プラントでまとめて製造・供給することで、エネルギーとスペースを効率的に使え、省エネルギーやCO2の削減といった様々なメリットが期待できます。
日本における本格的な地域熱供給は、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)の会場周辺エリアで初めてスタートし、全国各地に広まっていきました。近年では、カーボンニュートラルや再生可能エネルギーの利用、BCP(事業継続計画)、DCP(地域継続計画)対策といった社会課題を背景に地域熱供給への注目が高まり、全国で約130にのぼる地域で導入されています。
省エネルギーやカーボンニュートラル、BCP/DCPなどのニーズに対応
地域熱供給のメリットの一つが、未利用エネルギーを積極的に活用できる点です。未利用エネルギーとは、工場からの排熱や、河川水・下水などの温度差エネルギー(夏は大気よりも冷たく、冬は大気よりも温かい)、地下鉄や地下街の冷暖房排熱など、有効に利用できる可能性があるにもかかわらず、これまで利用されてこなかったエネルギーの総称です。地域熱供給では、こうした個別建物では利用が難しいエネルギーを熱供給プラントで熱媒に交換し、地域全体で利用することができます。
また、熱源設備に最新鋭の機器を導入し、熱源機器の台数制御により複数の機器を効率的に運転したり、負荷予測による最適起動・停止を実施するといった最適化や、コージェネレーション*1システムによる廃熱利用、大規模蓄熱システムを利用した電力の有効活用などにより、大幅な省エネルギーを図ることも可能です。2050年をターゲットとするカーボンニュートラルの実現に向けても、地域熱供給は重要な役割を担っています。
さらに、地域熱供給は需要家にも様々なメリットをもたらしています。例えば、オフィスビルや商業ビルといった個別建物で熱源設備を設置・運用することなく、365日24時間の安定的な熱利用ができるというのもその一つです。熱源設備が不要なため、それに付随する電気設備や引込み設備、換気設備などを含めたイニシャルコストが低減でき、建物の利用面積も広がります。さらに、BCP、DCP対策の面でも災害時のインフラとして期待されています。例えば、平常時に利用しているコージェネレーションシステムで、非常時の電力供給を行うことや、蓄熱槽に蓄えられた水を地域の生活用水として有効利用することもできるのです。
安定的な熱供給で快適な暮らしを支えるインフラとしても期待
このように地域熱供給は、都市が抱える安定的な熱供給をめぐるニーズや、省エネルギー、カーボンニュートラルの実現、さらにはBCP、DCPといった社会課題の解消につながるインフラとしても大いに注目されています。そうした中、現在では冷水や温水、蒸気といった熱媒に限らず、高圧電気も地域熱供給によって供給する仕組みや、熱供給施設と需要家の間で双方向に情報をやり取りするかたちで、需要家のエネルギー需要状況を踏まえた供給の調整を行うという取組みも進みつつあります。
そのほか、隣り合う二つの街区でそれぞれの熱供給プラントを連携させて、お互いの需要状況に応じてエネルギー供給を融通することや、どちらかの熱供給プラントの設備が故障した際に、供給を補うといった新たな運用形態も登場しています。
このように地域熱供給は、快適な暮らしを人知れず支えている、まさに“縁の下の力持ち”です。
- *1:コージェネレーション
天然ガス、石油、LPガスなどを燃料として、エンジン、タービン、燃料電池などの方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステム。回収した廃熱は、蒸気や温水として、冷暖房・給湯、工場の熱源などに利用でき、高い総合エネルギー効率が実現可能。