with azbil

SPECIAL

  • NEW

Special Talk 特別対談 | 株式会社堀場製作所 代表取締役社長 足立 正之氏×アズビル株式会社 取締役 代表執行役社長 山本 清博

アイキャッチ画像

激変するビジネス環境に即応しながら
社会課題の解消に向けた価値を提供

人々の生活に大きな制約をもたらしたコロナ禍を経て、DX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進展するなど、企業を取り巻く環境は、いま大きな転換期を迎えています。そうした状況に企業経営は、何を“道標(みちしるべ)”として進んでいくべきか。京都に本社を置き、分析・計測機器ビジネスをグローバルに展開する株式会社堀場製作所の代表取締役社長 足立正之氏と、アズビル株式会社の取締役 代表執行役社長 山本清博が語り合いました。

社会の様々な分野に全方位でのソリューションを供給していく

いままさに激動する時代にあって、どのような価値を顧客や社会に提供していこうとしていますか。

足立堀場製作所では、1978年に創業者である堀場雅夫が社是として「おもしろおかしく(Joy and Fun)」を定めました。そこには、従業員が常にやりがいをもって仕事に取り組みながら、人生において多くの時間を費やす「会社での日常」を自らの力で「おもしろおかしい」ものにし、変化や失敗を恐れずに挑戦する気持ちを大事にしていってほしいという願いが込められています。加えて2024年1月には、グループ共通ビジョンとして「おもしろおかしくをあらゆる生命へ(Joy and Fun for All)」を制定しました。そこでは、次代を担う個性豊かな人財※1が生み出すソリューションを通して、「おもしろおかしく」を自社のみならず、お客さまやパートナー企業の皆さま、さらには地球上の「すべての生命」へと押し広げていくことで、企業価値を高め持続的成長を遂げていこうという我々の想いを表明しています。
2024年2月に策定した今後5カ年に向けた中長期経営計画「MLMAP2028」では、これまで五つのセグメントで展開していた事業領域を、「エネルギー・環境」「バイオ・ヘルスケア」「先端材料・半導体」の三つの注力事業領域に再編しました。時代を問わず継続的に求められる分野に向けて、自社のコア技術を有機的に組み合わせて独創的な「はかる技術」を創出し、社会課題の解決に貢献していくことを見据えたものです。
例えば、カーボンニュートラルの実現に向けては、半世紀以上にわたって燃焼・発電の高効率化、低エミッション化を追求し続けてきたガス分析技術に加え、水素製造のプロセスで水電解の効率を評価する装置やCO2回収のアプリケーションを、地域ごとの多種多様なニーズに合わせて提供するなど、社会の様々な分野に対し、当社の技術をもって全方位でソリューションを提供していくことが、当社の最大の価値であると考えています。

山本アズビルにとって2024年度は、2021年度から取り組んできた中期経営計画の最終年度にあたります。同計画では、azbilグループ全体で計測と制御の技術によって持続可能な社会へ「直列」に繋がる貢献を目標にしており、我々の強みとする三つの成長領域「新オートメーション」「環境・エネルギー」「ライフサイクル型」の各事業で、特徴あるソリューションを提供していくことを目指しています。そうした中で、様々な変革が進み、新製品の開発や他社との協業で大きな成果も見られました。
一方で近年特に顕著なインフレの進行や人件費の高騰によって、さらなる収益力の強化や業務効率化のほか、顕在化する社会課題の解決に向けた事業開発や、なお一層の商品力の拡充など、取り組むべき課題も明らかになりました。
当社としては、そうした課題も踏まえたかたちで、2024年度は「さらなる成長に向けた変革」の年と位置付け、研究開発やDX、人的資本への投資に引き続き積極的に取り組むと同時に、現時点での変革による実績と浮上している課題を起点に、2025年度からスタートする新中期経営計画の内容策定に向けた検討を鋭意進めているところです。

堀場製作所の研究開発・生産拠点“HORIBA BIWAKO E-HARBOR”エントランスにて。帆に書かれた「おもしろおかしく」は創業者 堀場雅夫氏の自筆。

堀場製作所の研究開発・生産拠点“HORIBA BIWAKO E-HARBOR”エントランスにて。
帆に書かれた「おもしろおかしく」は創業者 堀場雅夫氏の自筆。

新たな社会価値提供には企業の「連携」が不可欠

そうした価値提供は、もはや個社では行えず、複数の企業がお互いの強みを活かすかたちで連携・協業をしていくことが今後重要になってきます。

足立今日の企業にとって社会価値の提供のための「連携」は、もはや不可欠だと思います。企業同士の産産連携をはじめ、産学連携や産官学連携などをグローバルな規模で進めていくことが重要です。
当社の例でいえば、2021年6月に株式会社島津製作所様と共同で計測機器「LC-Raman(エルシー・ラマン)システム」※2を開発、リリースしました。これは島津製作所様の分離技術と当社特有の分光技術の融合によって実現されたもので、混合試料の成分の分析・同定の精度が大幅に向上するとともに、LC検出器では検出できない成分の検出も期待できるなど新たな価値を創出しました。このように、かつては競合と認識されてきた企業とも、互いの技術を認め合い、補完し合うかたちで連携を進めていくケースも増えています。もちろん御社とも、協業の可能性を探っていければと考えているところです。
さらに京都には独自の文化を育んでいる大学も数多く存在しています。そうした大学の研究機関が当社のお客さまであるケースも多く、創業時から産学連携を重視してきたという経緯があります。近年では2023年に京都大学との間で包括連携協定を締結しました。「HONMAMON(ほんまもん※3)共創研究」と名付けて、学内公募による次世代技術の創出につながる“ほんまもん”の基礎研究を目利きし、共同で共創研究を進めているところです。

山本当社の具体的な展開の一つを挙げるとビルディングオートメーション(BA)の領域における協業があります。仮にビルを建てる際、ビルの設備には数千社の数十万点という製品が用いられます。製品だけではなく、建物を建てる、建物に様々な機能を付加していくたくさんの企業と協働することで、快適で安全に生活できる空間が創造できます。このように建設業界、各種メーカーの企業間の協働なしには建物・設備が完成しない領域でもあることから、外部との協業が当たり前のように行われてきました。
近年では、「環境・エネルギー」の事業において、GX(グリーントランスフォーメーション)※4を推進しています。経済産業省の「GXリーグ基本構想」にも賛同し、GX推進を念頭に2050年のカーボンニュートラル実現と社会変革を見据えて、官・学との連携も強化しています。社内的にも、GXを推進する部門を順次設置しています。
また、グローバルな観点では、2023年5月にインドで最も優れた技術教育機関の一つであるインド工科大学ルールキー校との間で、革新的なデジタルソリューションの共同研究について覚書を締結しました。この協業を通じて画期的な技術の研究を共に進めるとともに、同校の学生にはグローバルな職場環境での学習機会を提供し、技術研究と教育の双方で支援を進めていきます。
既に御社の工場やビルには、当社の様々な製品を採用していただいています。そういった意味でも、さらなる省エネルギーの推進などで協業を推進していける素地は十分に整っていると考えています。

暗黙知を形式知に変えるだけでは技術伝承は図れない

技術を競争力のコアとする両社にとって、熟練者から若手への技術の継承も重要なテーマですね。

足立当社の創業者である堀場雅夫は“ほんまもん”の技術にこだわりました。その価値は時代を経ても変わることはありません。当社では、コアの技術をただ守り伝えるのではなく、歴代の技術者が蓄積してきたノウハウや知見を次世代につなげることを「技術の遷宮(SENGU)」と名付け、企業文化として定着させています。
一般的に技術伝承のアプローチとしては、熟練者の暗黙知を形式知に変える「見える化」が重要であると言われます。しかし実際には、そんな単純なものではないというのが我々の考えです。当社では、若手がベテランの技を学びながら、一から自分で作ってコア技術を体得するという機会を世界中の各拠点で設けています。そうした機会を通して、ベテランが経験の中で培ってきたノウハウを若手に伝えることができ、同時に若手の柔軟な発想力が加わることで、新たな技術の創出につなげていくことができると考えています。

HORIBA BIWAKO E-HARBORに併設する、最先端のソリューションを「見て」「使って」その効果を「体感」できる自動車計測テストセンター“E-LAB”。実際に車で走行しなくても、走行したのと同等の条件で各種実験ができる。

HORIBA BIWAKO E-HARBORに併設する、最先端のソリューションを「見て」「使って」
その効果を「体感」できる自動車計測テストセンター“E-LAB”。
実際に車で走行しなくても、走行したのと同等の条件で各種実験ができる。

山本なるほど。そうした考え方は当社も同様です。azbilグループの創業者である山口武彦は、日本の産業の成長期に欧米で技術を学び、その技術によって「人間の苦役からの解放」を原点として現在のアズビルの前身である山武商会を起業しました。その精神は今日のグループの理念である「人を中心としたオートメーション」にも引き継がれています。
それは「人」にとっての快適性や生産性を基準に、エネルギーや資源の投入と地球環境の保全を両立するという考え方です。例えば働く場所には常に人がいます。そこにいる人が安心・快適に感じる空間であることが、より創造的な新しい働き方ができる環境であるわけです。つまり「人の感受性」をセンサとして空間の温熱環境を制御することにより、より少ないエネルギーで快適な環境を実現する技術や、現場で働く人たちに安全・安心だけでなく、より創造的で自由な時間を提供する技術など、「人を中心とした」発想で開発していくことが当社のビジネスの根幹にあります。そうした技術の伝承は足立社長がおっしゃるように、暗黙知を形式知に変えるだけでなし得るものではありません。技術に携わる人が自ら手を動かして経験を積んでいくことこそが必要で、それができる仕組みの構築を、当社でも進めています。

人間とAIの違いは「パッション」の有無にある

人的資本経営の必要性が声高に叫ばれています。それに関してはどのような取組みを進めていますか。

山本azbilグループでは、2019年7月に働き方改革とダイバーシティの推進により、個人の能力を最大限に発揮できる職場づくりを目指すことをうたった「azbilグループ健幸宣言」を発表しました。「現場で価値を創り、社会に貢献する」取組みが、従業員の「働きがい」やWell-beingにつながると考えています。この指標は「azbilグループSDGs目標」で掲げた、2030年に働くことへの満足度・成長実感比率を65%以上に高めること、女性活躍や研さん機会は当社の指標で2017年度比の2倍にといった目標の設定にもつながり、それらの目標達成に向けた様々なチャレンジが行われています。
加えてコロナ禍の2020年6月から、社長と社員が対話する取組み「社長と話そう」を開始しました。これまで3,800名を超える国内外の社員と対話をしてきました。さらに、ダイバーシティ推進の一環として展開している「アズビル・ダイバーシティ・ネットワーク(ADN)」活動を通じて、「風土や意識の改革」「多様な人材の活躍」「多様な働き方の推進」という三つの視点に立った取組みも着実に進めており、社員からも数々の提案が寄せられ、実際の施策に取り入れられているものも少なくありません。

足立そうした取組みは重要ですね。HORIBAグループでもエンゲージメントの強化にフォーカスした取組みを行っています。当社は日本で一番パーティーが多い会社とも言われています。例えば、役員がホストとなって毎月誕生日会を開催しています。その月に誕生日を迎える全従業員が対象の誕生日会は、国内に限らず海外グループ会社にも浸透しています。国内では催し物を企画する親睦会が中心となって、運動会や納涼祭など様々な親睦の場を設けています。新人が主催する夏のビアガーデンも恒例行事となっています。いずれも、社内コミュニケーションの活性化を念頭に置いたもので、従業員と経営層や管理職が気軽に話せる場をつくることを心がけています。そうしたことが従業員の育成であったり、従業員が最大限に能力を発揮したりするのに役立つものだと捉えています。
いまAIの業務利用が大きな注目を集めていますが、人とAIの価値の違いは何かというと、それは「パッション」の有無ではないかと私自身考えています。本当に自分がやりたいと思ったことを任せてもらえるか、任せたことをやってもらえるか。あるいは他者と異なる意見のベクトルをどのように合わせて解決していくか。そうしたところをコミュニケーションすることによって各従業員がそれぞれのパッションをしっかりと伝え合い共有していくことが重要でしょう。
2023年に創立70周年を迎えたHORIBAグループでは、30年後の創立100周年に向けてどのような会社でありたいか、「ホリバリアン(HORIBAで働く従業員の愛称)」はどのような人財であるべきかなど、未来に向けた議論を重ねてきました。冒頭で紹介したグループの共通ビジョン「おもしろおかしくをあらゆる生命へ」もその中で生み出されたものです。そうした共通ビジョンへの理解を深め、それぞれが社是である「おもしろおかしく」の体現者となることが当社の成長を促す原動力となると確信しています。今後もホリバリアン一人ひとりが、「おもしろい」と思うものを追求する企業風土をしっかりと培っていきたいと考えています。

株式会社堀場製作所 代表取締役社長 足立 正之氏

変化や失敗を恐れずに挑戦する気持ちを大切にする
企業風土を引き続き培っていく

株式会社堀場製作所
代表取締役社長

足立 正之氏

アズビル株式会社 取締役 代表執行役社長 山本 清博

持続可能な社会へと「直列」に繋がる貢献が
「働きがい」やWell-beingの実現につながる

アズビル株式会社
取締役
代表執行役社長

山本 清博

一隻の船に見立てて設計されたHORIBA BIWAKO E-HARBORからは、琵琶湖を一望できる。

一隻の船に見立てて設計されたHORIBA BIWAKO E-HARBORからは、琵琶湖を一望できる。

  • *1:人財
    HORIBAでは、従業員を大切な財産と考えて「人財」と表現しています。
  • *2:LC-Ramanシステム
    島津製作所が製造するLC(Liquid Chromatography)と堀場製作所が製造するRaman(ラマン)ならびに専用ソフトウェア「LiChRa」を組み合わせた複合システム。
    製品サイト:LC-Raman System LC-Raman システム 専用ソフトウェア LiChRa™ - HORIBA
  • *3:ほんまもん
    関西弁で本物(ほんもの)を意味する言葉。堀場製作所の創業者である堀場雅夫は「本物(ほんまもん)」は時代を重ねてもその価値が一流であり、人の心に触れて感動やひらめきを与え、揺るぎない信頼をもたらすと考え、ほんまもんの技術開発にこだわりました。HORIBAではほんまもんの意味を「心をこめてより良いものを追い求めつづけた先に生まれる、唯一無二の価値」と捉え、創業者の想いを継ぐ言葉として大切にしています。
  • *4:GX(グリーントランスフォーメーション)
    温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを経済成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて経済社会システムを変革すること。