修善寺温泉事業協同組合
集中管理システムの全面リニューアルで温泉資源の保護と効率的利用を実現
平安時代からの歴史ある名湯として知られる修善寺温泉。一時は枯渇の危機に瀕(ひん)した温泉資源の保護に向け、修善寺温泉事業協同組合は源泉からの採湯、および旅館などへの配湯にかかわる集中管理システムを全面リニューアルしました。その結果、貴重な温泉資源を次の世代に残すための対策とより効率的に利用するための仕組みを実現。併せて大幅な省電力も達成しています。
工場・プラント分野 その他(市場・産業) 省エネルギー 安定稼働 稼働改善 運転監視・制御システム&ソフトウェア 圧力計(圧力センサ)/差圧計(差圧センサ) 調節計(温調計)/記録計
導入製品・サービス
無秩序な温泉資源の利用を廃し、集中管理による効率的供給を推進
第一配湯所の貯湯槽。源泉からポンプで汲み上げられた湯が一定の水位で蓄えられており、ここから第二配湯所へと送り出される。2基(予備槽1基)構成
静岡県伊豆市北部、伊豆山中を流れる桂川のほとりに位置する修善寺温泉。平安時代の初め、弘法大師が桂川のほとりで病身の父親の体を洗う子供に出会いました。その姿に胸を打たれ湧出させたという「独鈷(とっこ)の湯」が修善寺温泉の起源とされ、古くから栄えてきました。現在では、風情豊かな旅館や土産物店が立ち並び、全国から訪れる観光客を魅了しています。
今や年間宿泊者31万人を数えるリゾートとしてにぎわう修善寺温泉ですが、戦後の1950年ごろには自噴泉が枯渇し、源泉温度も低下するという危機的状況に陥りました。
「明治以降、急速に進んだ観光地化を背景に、温泉が限りある貴重な資源であることを知らずに源泉が乱掘され、自然が本来持つ循環のバランスを崩してしまったわけです。その結果、独鈷の湯は海抜90mあった水位が0mに、温度も64℃から54℃に低下し、泉質も海水に近いものへと変化してしまったのです」(野田氏)
事態を深刻に受け止めた修善寺温泉事業協同組合では、1981年にそれまでルールを定めていなかった温泉資源の利用を適切かつ効率的に行うべく、集中管理による供給をスタートさせました。具体的には、利用可能な源泉を絞り込んで、汲(く)み上げ量をコントロールするとともに、温泉街の南北2カ所に第一、第二の貯湯槽(ちょとうそう)を設置。源泉に近く標高の高い場所にある第一貯湯槽から、汲み上げられた温泉を標高差とポンプを利用して下流1.5kmに位置する第二貯湯槽へと送り込み、第二貯湯槽から再びポンプの力で第一貯湯槽に返すという「キャッチボール方式」で湯を循環させ、その経路で旅館などに温泉を供給するシステムを構築しました。
「その後も貯湯槽をそれぞれ2基構成に増設したり、電子制御の仕組みを導入するなど、30年以上にわたってシステムの拡充を図ってきました。ところが、2012年ごろには設備を提供するメーカーの保守切れにより、修理に必要な部品が供給されないという課題が浮上しました」(野田氏)
第一配湯所に設置された計装盤内にはインバータ制御に用いられる計装ネットワークモジュールNX、デジタル指示調節計SDCシリーズが組み込まれている。
近隣の温泉の取組み事例に触れ、衝撃を受けたことが選定を後押し
修善寺温泉事業協同組合では、これを契機に設備の全面的なリニューアルを決断。最新の制御システムの導入、さらに効率的に温泉を利用する仕組みづくりを目指しました。複数のベンダーに提案を依頼し、コスト面や使い勝手などをはじめとする総合的な視点での検討を行った結果、アズビル株式会社をパートナーに迎えました。
「以前から伊豆長岡、下田など、同じように集中管理を行っている温泉組織の間で情報交換をしており、下田温泉の監視・制御の仕組みを見学する機会がありました。見学中に、たまたまシステムからアラームが発報され、監視画面上にはどの場所で漏湯(ろうとう)が発生したのかが一目で分かるように表示されていました。トラブルの発生を基本的にはユーザーや近隣住民からの報告で知ることが多かった我々にとって、そうした仕組みはまさに衝撃的なものでした」(遠藤氏)
その下田温泉がアズビルのシステムを使っていたことも、採用を後押しした理由の一つだったといいます。同組合ではその後、協調オートメーション・システムHarmonas™および計装ネットワークモジュール NXを中核にしたアズビルの提案を基に、監視・制御の仕組みの構築を進めました。
第一配湯所にある事務局に設置されたHarmonasの監視・制御端末。第二配湯所には、アズビルの提供するマルチクライアント環境TSSも併せて導入され、どちらの配湯所にいても同じ画面を閲覧することができる。
採湯・配湯プロセスの効率化・可視化と電力消費の大幅削減を併せて実現
配湯にかかわる配管の圧力を計測するセンサにはアズビルの圧力センサ Bravolight™(ブラボライト)が用いられている。
六つある源泉からの採湯(さいとう)、およびキャッチボール方式での配湯(はいとう)を行うための湯の循環状況を監視画面上で可視化させました。さらに第一配湯所の貯湯槽内の水位を一定範囲(75~85%)に保つために、源泉からの汲み上げに使うポンプの起動・停止を行う仕組みのほか、配湯の循環経路における旅館などへの温泉の供給を常に一定の圧力で効率的に行えるよう、第一、第二の両配湯所に設置された配湯ポンプをインバータ化して制御する仕組みなどを導入しました。
「採湯から配湯に至るプロセスがすべて見える化できたことの意義は大きく、仮にどこかで問題が発生した際にも速やかな対処が可能になるなど、温泉供給の安定性をさらに高めることができました。以前はそのときの需要量などによって、標高の高い場所にある旅館から『お湯の出方が悪い』といった報告が寄せられることもありましたが、配湯管内に流れる湯量と圧力の適切な制御で、そうした問題も解消されました」(遠藤氏)
配湯にかかわる圧力の制御では、一気に高い圧力でお湯を送り出すと、配管の破断が生じることがあるため、徐々に圧力を上げて配管に影響が出ない工夫などがされています。このように配管の保護も念頭に置いており、温泉供給資材の耐用年数を延ばすことにも寄与しています。
一方、配湯用ポンプをインバータ化し、そのときの状況に応じて回転数を制御することで、使用電力が大幅に削減されました。第二配湯所を例に取ると、ポンプの稼働にかかわる電力消費が従来の3分の1程度にまで減っています。
「継続的な集中管理体制が整ったことで、現在では源泉の水位も海抜82m程度にまで回復しました。温度や泉質の問題も解消されています。大きな地殻変動などがない限り自噴が途絶えた温泉が再度自噴を始めた例は世界でもありません。継続的な努力によって以前のように修禅寺の前で自噴の湯気が再び上がることを期待しています。温泉は自然が生み出してくれるかけがえのない資源であり、温泉を守るための集中管理の重要性を次の世代に伝えていくことは我々の重要な使命だと思っています。そうした観点からも、今回のシステム整備の持つ意義はとりわけ大きいものと捉えています。今後もアズビルには、なお一層の貢献を果たしていってくれることを大いに期待しているところです」(野田氏)
お客さま紹介
代表理事
野田 治久 氏
事務局長
遠藤 康博 氏
修善寺温泉事業協同組合
修善寺温泉事業協同組合
- 所在地/静岡県伊豆市修善寺1146-2
- 設立/1951年
この記事はazbilグループのPR誌azbil(アズビル)の2014 Vol.6(2014年12月発行)に掲載されたものです。