東京ガス株式会社
地区ガバナ遠隔再稼働システムの構築により
地震で遮断されたガス供給の迅速な再開を実現
東京ガスでは、供給エリア内に設置された約4,000カ所の地区ガバナに地震センサを設置しており、強い地震が発生した際には地震センサからの出力により自動でガスの供給を遮断するとともに、地震の揺れが遮断の基準に達していない地区ガバナでも、周囲の被害が確認された場合には、遠隔操作による遮断を追加して行うことが可能となっています。一方、復旧に当たっては、現地で地区ガバナを再稼働する操作が必要となりますが、巨大地震発生時は、交通網の混乱などにより、担当者が速やかに現地に駆けつけることが困難な状況に陥る懸念がありました。このような課題を受け、同社では、人々の生活を支えるガスの速やかな復旧のため、遠隔で再稼働できるシステムを構築し、2014年度から運用を開始しました。
工場・プラント分野 電力・ガス 安全・安心 スイッチ/センサ
導入製品・サービス
業界に先駆けて、地震センサによるガスの自動供給停止の仕組みを実現
首都圏を中心とした地域への都市ガス供給を通じて、住民の快適な暮らしや産業の発展を支える東京ガス株式会社。その供給エリアは、東京都、神奈川県をはじめ1都6県にまたがり、需要家数は約1,100万件に上ります。
同社では、東日本大震災をきっかけに日本のエネルギー政策が大きな転換期を迎え、さらに2016年には電力小売りの全面自由化がスタートするといった潮流を見据え、「エネルギーと未来のために東京ガスグループがめざすこと。~チャレンジ2020ビジョン~」を策定しました。液化天然ガス(LNG)の調達から輸送、都市ガスの製造、供給、さらには様々な顧客ニーズに合わせたエネルギーソリューションの提供へと続く「LNGバリューチェーン」の高度化を通じて、顧客や社会に対する価値創造の取組みを継続的に強化していく旨を明らかにしています。その中で、同社が施策テーマとして掲げているのが「エネルギーの安全かつ安定的な供給」「日本の持続的成長を支えるエネルギーコストの低減」「省エネ・省CO2に貢献するエネルギーシステムの革新」です。
「特にエネルギーの安全かつ安定的な供給のために不可欠なのが、地震などの緊急時に備えた防災システムの強化です。当社では、20年以上も前から供給エリア内に設置された地区ガバナ※1すべてに地震センサを設置しています。一定以上の地震の揺れをセンサが検知すると、自動的にガスの供給を停止する仕組みをいち早く実現してきました」(齊藤氏)
東日本大震災では早期復旧を実現するも、交通網混乱により現場作業が困難な状況に
地区ガバナ内に設置された地震センサSES70。
さらに1995年1月の阪神・淡路大震災を契機に、地震動の加速度を検出し、地震の揺れが構造物に及ぼす被害想定の指標となるSI値※2の算出・出力を行うインテリジェント地震センサ SES™60ならびに遮断を制御するユニット SES51Zを、アズビル株式会社との間で共同開発しました。地震センサの出力によりガス供給を自動遮断できる機能に加え、現場に設置された圧力計や流量計から得られたガスの情報を併せてセンター側の地震防災システムSUPREME(シュープリーム)に無線で送信し、被害の程度に応じて選択的に遠隔操作による遮断が行える仕組みへと進化させました。
東日本大震災の際には、東京ガス管内においても震度5弱~6強の揺れが観測されましたが、SUPREMEは設計どおりに動作し、地震センサ SES60の観測情報により、必要な箇所の自動遮断が確実に行われました。
「安全上の観点から強制的にガスの供給停止を行った地域では、その後、地区ガバナに担当者が駆けつけ、周辺の被害状況やガス設備の状況など、問題がないことを確認した上でガスの供給を再開します。東日本大震災時の対応では、全域で供給を停止した茨城県の日立支社で復旧に1週間を要したものの、それ以外に地区ガバナの自動遮断機能により局所的にガスの供給を停止した三つの地域については当日中に復旧を完了しました。しかし、東日本大震災での対応を通じて、交通網の混乱や渋滞などの影響で、担当者が現場に到着するのに時間がかかることがあらためて課題として認識されました」(齊藤氏)
「より大きな地震が発生した際に、供給停止する地域が増えた場合、今回のような早期の復旧作業が困難になることが予想されます。そこで地震発生後の導管網の圧力をモニタリングしてガスの漏えいがないと判断できれば、センターからの遠隔操作でガスの供給を復旧させる仕組みが必要だと判断しました。かつて共に地震センサを開発し、自動/遠隔遮断の仕組みをつくり上げたアズビルとアズビル金門株式会社の支援を得て、地区ガバナの遠隔再稼働を実現するシステムの開発に取り組むことにしたのです」(小山氏)
一度遮断したガス供給を安全に遠隔操作で再開できる仕組みを実現
遮断/再開双方のバルブ制御を可能とする開閉制御ユニットSES71Z。
SES60に代わる新しい地震センサ“SES70”、およびガバナの遮断/再稼働のための開閉操作を行うための開閉制御ユニット“SES71Z”、開閉双方向に動作するバルブ“BSV™”が新たに東京ガス、アズビル、アズビル金門の間で開発されました。このような新機能を追加する上でも、平時の都市ガスの安定供給を確実に担保するために、開発は細心の注意を払いながら進められました。
「ガバナを遮断するだけでなく、新たに開閉双方向に動作をさせるため、これまで以上に慎重な制御ロジックをSES70・SES71Zに搭載することが必要だと考えました。具体的にはSES70のリレー接点を従来の遮断用だけではなく、新たに増設することで、ユニットの制御開始とバルブへの電源供給開始のトリガとしました。こうすることにより、平時の誤作動のリスクを回避し、地震発生時における確実な遮断と再稼働の動作ができる構成を実現しました」(乗藤氏)
こうした仕組みを開発したことで、地震発生時のガス供給遮断の確実性を維持しつつ、被害がないと判断した地域については、一度遮断された地区ガバナに対して、担当者が現地に出動することなくSUPREMEによる遠隔操作により速やかに再稼働できるようになります。
「現在、順次、地区ガバナ設備におけるSES70、SES71Zへのリプレース、BSVの組込みを進めており、2018年度までには当社が設置する地区ガバナ約4,000カ所すべてへの導入を完了させる予定です」(乗藤氏)
「都市の皆さまの生活に不可欠なインフラであるガスを安全に安定的に供給することこそが、当社の最大のミッションです。震災という有事に臨んでも、ガスの供給停止時間を最小化できる今回のシステムの実現は、我々にとって大きな前進だといえます」(小山氏)
「今後もazbilグループには良きパートナーとして、その計測制御にかかわる高度な知見、技術力に基づいた提案で、我々の取組みをさらに進化させてくれることを大いに期待しています」(齊藤氏)
地区ガバナ設備への取付けが進められている、開閉操作を自在に行えるバルブBSV。
※SUPREMEは、東京ガス株式会社の商標です。
※SESは、アズビル株式会社の商標です。
※BSVは、アズビル金門株式会社の商標です。
用語解説
※1 地区ガバナ
ガスの消費量の増減に合わせてガスの圧力を自動的にコントロールする機能を持つガバナ(整圧器)により、工場から高い圧力で送出された都市ガスを安全な圧力に減圧して需要家に供給するための設備。
※2 SI値(Spectrum Intensity)
米国のハウスナー(G. W. Housner)によって提唱され、地震によって一般的な建物にどの程度の被害が生じるかを数値化したもの。
お客さま紹介
執行役員
防災・供給部長
齊藤 隆弘 氏
防災・供給部
防災・供給グループ
防災チーム
リーダー 副部長
小山 高寛 氏
防災・供給部
防災・供給グループ
防災チーム
副課長
乗藤(のりとう) 雄基 氏
東京ガス株式会社
東京ガス株式会社
- 所在地/東京都港区海岸1-5-20
- 創立/1885年10月1日
- 事業内容/ガスの製造・供給および販売、ガス機器の製作・販売およびこれに関連する工事、エネルギーサービス
この記事はazbilグループのPR誌azbil(アズビル)の2015 Vol.2(2015年04月発行)に掲載されたものです。