JCRファーマ株式会社
製薬事業のグローバル展開に向け開発・製造に関する重要文書の運用を電子化
「医薬品を通して人々の健康に貢献する」という企業理念の下、バイオ技術を活用した医薬品等の研究開発から製造、販売まで一貫して手掛けるJCRファーマ。同社は事業のグローバル化に伴い、確実に業務を遂行し品質管理を強化するため、重要文書の電子化に取り組みました。世界の多くの企業で採用されており、品質マネジメントシステムの構築を支援するパッケージソフトを導入し、手順書や開発過程のデータを確実に運用・保管する環境を整備しました。
工場・プラント分野 医療・医薬品 品質管理 運転監視・制御システム&ソフトウェア
導入製品・サービス
事業のグローバル化を見据え、新薬開発と販路開拓を推進
1975年の創業以来、ヒト生体由来の酵素やタンパクの研究に取り組むJCRファーマ株式会社。ヒト成長ホルモン製剤の「グロウジェクト」や、国産初のバイオ後続品である「エポエチンアルファBS注JCR」などに代表されるバイオ医薬品の研究開発・製造技術は、国内外で高い評価を受けています。
同社は研究開発型企業として、アンメット・メディカル・ニーズ※1に応える希少疾病の新薬開発にも積極的です。現在は無血清条件での細胞培養技術を活かし、遺伝的問題のために生じる細胞内の代謝物の蓄積により発症する「ライソゾーム病」の治療薬開発を進めています。また「移植片対宿主(いしょくへんたいしゅくしゅ)病(GVHD)」※2に対して、他家のヒト間葉(かんよう)系幹細胞を用いて開発した製品は、日本初の再生医療等製品として実用化への動きが大きく注目されています。
事業のグローバル化に向けた取組みも推進しています。世界的な製薬会社であるグラクソ・スミスクライン社と協業して、海外販路の開拓や開発力の強化を図る一方、2012年夏にはグローバル展開が可能な水準の品質保証体制も確立しました。
機密・保全・改ざん防止の要求に応える信頼性に優れたシステムを採用
こうした中、次の課題とされたのが文書管理の電子化でした。医薬品の開発・製造においては、法令などにより各種業務の手順書を整備し、記録を保存することが義務付けられています。従来これらを紙で行っていましたが、文書の破損・消失のリスクや保管スペースの問題を解決し、業務の確実性を高めていく上で電子化の必要性が高まっていたのです。
「手順書は年1回の見直しと、最新版への取換えを確実に行わなければなりません。その運用システムの整備が規制当局の重要な評価ポイントになっています。製薬業界全体の電子化の流れに追随していく上でも、コンピュータベースで文書を管理する必要がありました」(浜詰氏)
「医薬品開発においては、治験などで収集したデータの信頼性が厳しく問われます。新薬の承認申請は、必要文書を電子データで提出する形に変わってきています。このため文書の信頼性担保を第一に、治験の計画書やレポート、契約書などの膨大な文書を保管できる環境を求めていました」(川崎氏)
各部門の要望を踏まえ、同社は文書管理システムを中心に複数社の製品について検討しました。その結果、アズビル株式会社から提案を受けた、医薬品・医療機器産業向けQMS※3パッケージ MasterControl™の導入を2013年初頭に決定しました。
MasterControl™は品質マネジメントシステムの構築を支援するパッケージソフトです。文書管理から教育訓練、製造・試験記録、CAPA※4の実施など、業務を幅広くカバーしているのが特長です。米国で査察も実施する政府機関の食品医薬品局(FDA)をはじめ、700以上のグローバル企業・機関に導入されています。
「コンピュータシステムの導入に伴う監査対応やバリデーション※5を検討する上で、“FDAが採用”という実績が安心感につながりました。また文書の作成、承認、保管という一般的なプロセスに加えて、作成途中の文書に対するレビューの記録も残したいという開発本部の要望に対し、アズビルからMasterControl™上で実現するための具体的な提案があったことも採用の決め手になりました」(橋本氏)
「バイオ医薬品の製造記録は保管期間が35年と長く、保存スペースの課題もあります。MasterControl™は品質管理、製造の指図記録書の保存も網羅しており、将来に向けて適用範囲を拡張していけることも魅力でした」(稲野氏)
今後はMasterControl™に登録されている手順書内のチェックリストをタブレット端末で確認しながら、現場の管理状況の確認を行う予定。
最新設備であるディスポーザブルバッグを用いたリアクターを使用するなど最新技術を導入。
実務知見に基づくサポートで現場へのスムーズな導入を達成
開発本部では臨床試験にかかわる文書をMasterControl™に登録し、文書の改ざんを防止しデータの信頼性を確保している。
円滑な導入に向けてアズビルは、医薬品製造システムの構築などで蓄積した医薬業界特有の業務知見に基づくコンサルティングサービスを提供。コンピュータシステム面だけでなく、生産・開発・研究本部などそれぞれの運用に配慮した活用方法を提示しながら、実務に適用するプロセスを構築しました。
「システムの構築からバリデーションまで、綿密に打ち合わせながら進められました。質問への回答も的確で、導入時のサポートに満足しています。問題が発生したときも、影響や対処方法だけでなく査察対応にまで踏み込んだアドバイスがありました。製薬会社の実務とシステムの両方に精通していると実感しました」(前田氏)
MasterControl™を用いて構築したシステムは2014年2月、研究本部を皮切りに運用を開始。現在では開発本部と生産本部における文書管理にも用いられています。
「開発業務の中で発生する文書をMasterControl™で作るようになってから、紙を扱うケースは激減しました。システム管理者でさえデータの削除はできず、また、操作ミスですら記録として残るので、おのずと信頼性を担保でき、これから実施される当局の調査の際は、紙の資料の準備は不要になると考えています」(吉本氏)
「生産本部全体の手順書は数千点に及び、更新のたびに各工場から旧版を回収しています。この作業がMasterControl™で完結できるようになれば、導入効果をますます実感できると思います」(泉谷氏)
今後はシステムに対する社員の習熟度を高めながら、教育訓練や逸脱管理、部門をまたぐ文書の承認手続きなど、適用範囲を広げていく考えです。
「MasterControl™を使う意義は、業務を確実に実施できるようにすることです。そのためには業務の手順やルールを最適化した上で適用することが重要です。アズビルには今後も、数ある導入経験を活かしたアドバイスに期待しています」(浜詰氏)
※MasterControlはMasterControl Inc.の商標です。
用語解説
1 アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs)
まだ満たされていない医療上の需要。一例として、希少疾病(日本では患者数がおおむね5万人未満の疾患と定義)に対する治療法や医薬品の必要性が挙げられる。希少疾病向けの医薬品はオーファン・ドラッグと呼ばれる。
※2 移植片対宿主病(GVHD)
白血病などの治療で行われる骨髄移植(造血幹細胞移植)後に見られる合併症の一つ。ドナー(提供者)の移植片に含まれる免疫担当細胞が、レシピエント(受給者)である患者の体そのものを“よそ者”と見なして攻撃してしまう免疫反応。
※3 QMS(Quality Management System)
品質マネジメントシステム。製造物や提供されるサービスの品質を管理監督するシステム。
※4 CAPA(キャパ)
製品の不具合、不適合などの問題発生を防ぐための標準的な手法。発生した問題の再発防止を目的とした原因を特定・除去する是正措置(Corrective Action)と、今後発生しうる問題の原因を予測・除去する予防措置(Preventive Action)からなる。
※5 バリデーション
医薬品等の製造に関係する物事や手順の一つひとつが、想定した品質の医薬品等を製造するのにふさわしいことを科学的に検証し、文書化すること。ITシステムに対しても事前の想定どおりに動作するかの検証が必要になる。
お客さま紹介
経営支援本部
経営戦略部
情報システムグループ
グループ長
橋本 亮太 氏
生産本部
品質保証部
部長
理学博士
浜詰 康樹 氏
生産本部
品質保証部
神戸品質保証グループ
グループ長
稲野 治人 氏
生産本部
品質保証部
神戸品質保証グループ
係長
前田 尚敬 氏
生産本部
品質保証部
品質保証推進グループ
係長
泉谷 和歌子 氏
開発本部
開発業務部
部長
川崎 俊一 氏
開発本部
開発業務部
データサイエンスグループ
係長
吉本 志高 氏
JCRファーマ株式会社
JCRファーマ株式会社
- 所在地/兵庫県芦屋市春日町3番19号
- 設立/1975年
- 事業内容/医薬品等やその原料の製造、売買・輸出入、医療用機器および実験用機器の売買・輸出入
この記事はazbilグループのPR誌azbil(アズビル)の2015 Vol.3(2015年06月発行)に掲載されたものです。