アズビルテルスター有限会社
実流量計測による過酸化水素水の適量噴霧で、製薬設備に不可欠な除染処理の品質を向上
製薬工場の製薬プロセスを支える各種装置を製造するアズビルテルスターでは、その一つとして、無菌製造を維持する、または有害な物質を扱う際に作業者を保護するためのアイソレータ装置を提供しています。その装置内除染処理で噴霧される過酸化水素水の量を厳密に把握するために熱式微小液体流量計を採用。5~30mL/分という極めて微小な流量を高精度に計測することで、噴霧量の調整が可能になりました。最適な量を噴霧することにより、除染処理の品質向上を実現しています。
工場・プラント分野 その他(市場・産業) 品質管理 海外 流量計
導入製品・サービス
除染に用いられる過酸化水素水の噴霧量をいかに厳密に把握するか
製薬工場や研究所、病院市場に向けて、凍結乾燥装置や滅菌装置、製薬用水製造装置、蒸気発生装置、クリーンルーム用装置などを提供するアズビルテルスター有限会社。スペインに本拠を置く同社は、2013年1月にazbilグループに参入し、グループのライフオートメーション事業の一翼を担う企業として、欧州諸国や中南米の16カ国に拠点を置き、グローバルにビジネスを展開しています。同社は、装置の開発・製造・販売にとどまらず、クリーンルームなどの設計・エンジニアリング・施工、製造・品質管理基準(GMP)にかかわるコンサルティングサービスなども展開。医薬やバイオテクノロジー、ヘルスケア、食品・飲料領域における包括的な知識と技術を活かし、ライフサイエンス分野全般にかかわる高付加価値なソリューションを提供しています。
アズビルテルスターが提供する製品の一つに、「アイソレータ」があります。これは、製薬プロセスにおいて、隔離されたユニットの中で無菌環境を維持する、または有害・有毒な物質を扱う際に作業者を保護するための装置で、新型コロナウイルスのワクチンを製造する施設でも活用されています。アイソレータは、ユニット内部(アイソレータハウジング)を、気圧を上げて陽圧にしたり、下げて陰圧にしたりすることが可能です。陽圧にした場合は外部から汚染物が侵入しない仕組みとなっており、ハウジング内を無菌に保つことができます。オペレータはハウジングに備え付けられたグローブボックスから手を入れて必要な作業を行います。ハウジング内には除染処理を行う装置が不可欠で、この除染処理を行うionHP+という装置もアズビルテルスターが提供しています。
「ionHP+は、過酸化水素水と空気を均一に混合して噴霧することで表面の除染を行います。従来のプロセスでは過酸化水素水は直接監視されていませんでしたが、投与システムの事前キャリブレーションプロセスを通して、所定量の過酸化水素を過酸化水素水の容量に注加していました。つまり、過酸化水素の全体量を間接的に推定していました」(Cantera氏)
過酸化水素水の使用量を正確に把握し、除染処理の品質向上を目指すために同社が注目したのが実流量の計測です。噴霧口に至る経路で過酸化水素水の実流量を計測することが可能になれば、実際の噴霧量をより厳密に捉えることができます。その過不足に応じて機器の調整を行うことで、除染処理の品質向上が実現できます。
アズビルテルスターが提供するアイソレータ。隔離されたユニットの中で有害・有毒なプロセス処理を行うことで作業者の安全を守るための装置。
5~30mL/分の微小流量の計測を高精度で行える点を高く評価
ionHP+による滅菌品質の向上に向け、2018年4月ごろから液体流量計の導入検討を進めていた同社が採用したのが、アズビル株式会社の熱式微小液体流量計(形 F7M) でした。
「センサ領域で豊富な実績を持つアズビルは、多くのソリューションを網羅した幅広い製品ポートフォリオを備えています。そのため、微小液体流量計の実装プロジェクト開始当初から、アズビルの製品を最も有力な選択肢として考えていました」(Cantera氏)
導入に先がけ、アズビルテルスターでは2018年7月から、アズビルから提供された熱式微小液体流量計のサンプル品をionHP+に組み込んで実証試験を実施。同流量計の高い再現性は当初予想していた以上のもので、期待どおりの精度と製品の高い信頼性が確認できたといいます。
「市場に供給されている液体流量計では、100mL/分以上の流量を計測するものが一般的ですが、アズビルの熱式微小液体流量計は、従来、安定した計測が困難であった数mL/分の微小流量計測が可能です。実際にionHP+で扱う5~30mL/分という極めて微小の流量での計測を高精度で行える点を高く評価しました」(Cantera氏)
その後、2019年3月には、ある製薬会社へのアイソレータ納入案件においてアズビルの熱式微小液体流量計を実装した装置を提供。それ以降は、顧客に提供されるアイソレータのすべてに熱式微小液体流量計が組み込まれています。
「特に大きな成果を発揮しているのが、流量計のゼロ点調整時に測定対象液体の熱伝導率を推定し、それに応じた補正値を流量計自身が自動で設定する機能です。これにより案件ごとに使用する濃度が異なる、過酸化水素水のような液体の流量計測においても、調整作業が容易になっています。こうした機能は、ほかの微小液体流量計製品には見られないものであり、まさにアズビルの高度なセンサ技術によって実現された熱式微小液体流量計ならではの優位性だといえます」(Cantera氏)
アイソレータ内に装備されているアズビルテルスターのionHP+。アイソレータでのプロセス終了後、過酸化水素水を用いてハウジング内の滅菌作業を実施する。
20mL/分という微小な過酸化水素水を流す熱式微小液体流量計(形 F7M)(右)と、過酸化水素水と空気を均一に混合して噴霧する際に用いられるエア管理用メータ(左)。
技術開発領域での協業を通じて新たな価値創出を目指す
加えてアズビルテルスターでは、ionHP+で過酸化水素水と空気を均一に混合して噴霧する際に用いられている気体流量計をアズビルのエア管理用メータに、またパイプ内の過酸化水素水の有無を検知するセンサもアズビルのアンプ内蔵形パイプ取付液面スイッチに置き換えています。
「気体と液体という両方の流体の混合比率は非常に重要なカギとなります。パイプ取付液面スイッチは流体管路での気泡を見つけるために用いています。これらの機器の活用で注入すべき予定量の過酸化水素水を高精度に計測しています」(Cantera氏)
今後も同社ではアイソレータだけではなく、自社が提供する様々な装置において、広くアズビルのコンポーネント製品を採用していく予定です。
これまでスペイン、英国で生産を拡大してきたアズビルテルスターでは、現在、中国の上海市に、より大規模で先進的な生産拠点の設置を計画しており、自社の製品に寄せられるニーズの拡大に応えていこうとしています。
「技術志向の集団として継続的に研究開発の強化を図りながら、グローバルな市場に向けて、顧客起点でのより良い製品・ソリューションの提供を目指す当社にとって、アズビルは信頼できるパートナーです。例えば、アズビルの研究開発部門とも連携し、新技術や装置を開発するという取組みも既に進めています。そうした協業を通じて、今後もお客さまや社会に新たな価値を提供していきたいと考えています」(Cantera氏)
お客さま紹介
製薬研究開発部門
マネジャー
Ignacio Cantera 氏
アズビルテルスター有限会社
- 所在地/Av. Font i Sagué, 55, Parc Cientific i Tecnològic Orbital 40, 08227, Terrassa, Spain
- 設立/1963年
- 事業内容/製薬工場、研究所、病院向けの製造装置、環境装置などの開発・製造・販売、およびクリーンルーム関連コンサルティング、エンジニアリング
この記事は2022年06月に掲載されたものです。