コマツ 郡山工場
操業時のエア漏れを迅速かつ確実に検知、適切な対処により電力消費の無駄を大幅削減
建設機械や鉱山機械などの製造・販売を行う建設・鉱山機械メーカーのコマツ。同社の郡山工場では、コンプレッサの消費電力最適化を念頭に、配管などで生じているエア(圧縮空気)漏れ対策として超音波を活用した産業用音響カメラを導入しました。人では検知が困難だったエア漏れ箇所の特定が容易となり、適切なタイミングで修繕を行えるようになったことで、エア漏れによる無駄な電力消費を大幅に削減することができました。
工場・プラント分野 その他(市場・産業) 省エネルギー コスト削減 メンテナンスサポート 工場・プラントの設備診断
導入製品・サービス
工場の電力消費削減のカギを握る“エア漏れ”への適切な対処
1921年5月に石川県小松市で創業したコマツは、建設機械、鉱山機械、産業機械を提供する機械メーカーとして知られています。同社の建設機械・車両事業の海外売上比率は約9割を占めており、世界各国の拠点で生産から販売、サービスの提供までを一貫して行う体制を整えています。
福島県郡山市にある郡山工場は、同社が生産する各種機械の心臓部にあたる油圧機器の生産拠点として1994年に操業を開始しました。約37万8000m²の広大な敷地に第一から第三まで三つの工場を構え、同社の車体生産工場に供給する油圧シリンダやスイベルジョイント*1、ギヤポンプといった主要コンポーネントを開発・生産しています。
これまでも郡山工場では、太陽光発電や高効率空調、排熱の利用など、積極的に省エネ対策を実施してきており、その一環として、工場エネルギー管理システム(FEMS*2)を導入して工場における電力消費状況を見える化し、消費電力削減に向けた改善活動を進めてきました。このような中で、国が2050年をターゲットとしたカーボンニュートラルの達成を打ち出すなど、国内外で脱炭素への動きが活発化。コマツも2050年カーボンニュートラル宣言を行い、工場全体の一層のエネルギー使用量の削減に取り組んでいます。これを受け、郡山工場では、エネルギー使用量をさらに削減するための対応策として、既設のFEMSから新たなシステムへのリプレースも含め、アズビルトレーディング株式会社に提案を依頼しました。
「システムの強化を検討する上で懸念していたのが、導入後のメンテナンスです。複数の製品を検討する中で、アズビルトレーディングは提供しているシステムも多岐にわたっている上に、導入後のサポートも充実していて安心感がありました」(尾形氏)
人では検知しづらい問題箇所を、超音波を使って確実に検知
郡山工場では、アズビルトレーディングの協力を得ながらエネルギーの見える化システムの強化にかかわる検討を進める傍ら、工場内のエネルギー使用の最適化にも継続的に取り組んできました。同工場では、電力デマンドや消費電力量といったデータを比較していく中で、各工程で多用されるコンプレッサの電力消費量が高いことに着目しました。
「工場の電力消費の多くを占めているのが、圧縮空気を生み出すコンプレッサです。例えば第一工場では消費電力全体の20%をコンプレッサが占めています。配管の継ぎ目部分などで発生しているエア漏れを確実に検知、修繕して、コンプレッサの稼働を最適化することが工場の省エネルギーを進める上で必須であると考えました」(尾形氏)
エア漏れの点検はこれまで、工場が操業を停止する年2回の長期休暇中の静かな環境下で、空気が漏れるシューッという音を担当者が聞いて工場内を回るという方法で行っていましたが、人の聴覚に頼ったやり方には限界があったといいます。それに対してアズビルトレーディングが提案したのが、超音波でエア漏れを検知し、操業音下でも正確な音響画像を生成してエアが漏れている状態を可視化するFLIR社の産業用音響カメラ 形:FLIR Si124LD 2022(以下、FLIR Si124)の導入でした。
「製造設備を停止して内部まで確認しないと分からないところや高所にある配管など、人の耳では気付きづらい隠れた場所のエア漏れもFLIR Si124は検知してくれます。何より、1kWhあたりの電気料金の単価をFLIR Si124に設定しておくことで、漏れているエアの量から具体的な損失金額を算出するという画期的な機能に大きな魅力を感じました」(尾形氏)
同工場では、2022年7月にFLIR Si124によるデモンストレーションを実施。その結果、所要時間1~2時間程度で、第一工場の主要エリアでは年間200万円に相当するエア漏れがあることが分かりました。その有効性が確認され、2022年11月にFLIR Si124が正式導入となりました。
工場内の高所の配管や人が入りにくい設備の中も、離れた場所からFLIR Si124でエア漏れを検知できる。
エア漏れ発生箇所がFLIR Si124に搭載されたモニタ画面上に分かりやすく表示される。
操業時間帯での点検実施と対処で、エア漏れによる損失金額が半減
FLIR Si124の導入により同工場では操業音下でもエア漏れの検出が可能になり、操業時間帯に点検ができるようになりました。点検は、各センター長の主導の下、四半期に1度、2時間ほど実施しています。エア漏れ箇所の修繕は生産技術課の保守グループ、あるいは簡単なものであれば各現場の担当者自らが行います。さらに修繕後に適正な状態になっているかについても、FLIR Si124で確認を行っています。
FLIR Si124にはエア漏れ箇所の画像イメージが保存できることに加え、点検時にFLIR Si124本体に、コメントを入力した設備名や設置場所などと併せて漏えい量や算出した損失金額も記録できます。このデータを基に画像や情報を加えた分かりやすいレポートの作成が可能で、報告書をまとめる作業も楽になり管理を担当する社員の省力化にも大きく貢献しています。
「FLIR Si124によるエア漏れの監視を、第一から第三工場の各現場で1年弱にわたって続けてきた結果、エア漏れによる損失金額を50%程度低減させると同時にCO2排出量削減にも貢献することができました。特にFLIR Si124の活用によって、これまで想定していなかったところで問題が多く発生していることが分かり、エア漏れの発生に関する様々な気付きが得られたことも、我々にとって大きな成果です」(尾形氏)
今後も郡山工場ではFLIR Si124の活用により、操業中に発生するエア漏れに対し、スピーディに対処していくことで、電気使用量の削減に取り組んでいく考えです。
「エア漏れ対応はもちろん、工場における省エネ施策の展開という観点では、現在検討を続けているFEMSによるエネルギー消費動向の見える化の強化、あるいは生産設備への高効率機器の導入など、様々な取組みを想定しています。それに向けて、アズビルトレーディング、そしてazbilグループには、今後も積極的な提案を大いに期待しているところです」(尾形氏)
FLIR Si124から提供されるレポート機能により、全工場のエア漏れ点検の結果を、Web画面上でスムーズに共有可能。エア漏れしている箇所や量が色で表示される。
※FLIRは、Teledyne FLIR LLCまたはその関連会社の日本または他の国における商標です。
用語解説
※1 スイベルジョイント
ワイパーなど自動車パーツにも多数採用されているリンク機構を構成する従動節(出力を得る節)を任意に回転(スイベル)させることが可能な継ぎ手(ジョイント)。
※2 FEMS(Factory Energy Management System)
工場における生産設備のエネルギー使用状況を把握し、エネルギー使用の合理化・最適化を図るためのシステム。工場内の配電設備や空調設備、照明設備、製造ラインなどの使用エネルギーをモニタリング・管理する。
お客さま紹介
生産本部 郡山工場
生産部
生産技術課
尾形 郁弥 氏
コマツ 郡山工場
コマツ(株式会社 小松製作所)郡山工場
- 所在地/福島県郡山市待池台1-1
- 操業開始/1994年
- 事業内容/建設機械、鉱山機械などに用いられる油圧シリンダ、スイベルジョイント、ギヤポンプなど油圧機器の開発・生産
この記事は2024年02月に掲載されたものです。