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新洋酸素株式会社 新田工場

多変数モデル予測制御による自動化で人的資産の活用を推進

酸素、窒素、アルゴンといった産業ガスの供給を担う新洋酸素では、プラント操業にかかわる人的資産の最適な活用に向け、多変数モデル予測制御を導入し、これまで人が調整してきた生産プロセスの自動化を実現しました。運転における人の介在を最小化し、オペレータの作業負担を大幅に軽減することで、保全などの新たな業務へチャレンジできる環境が創出できました。

工場・プラント分野 化学 電力・ガス 省エネルギー 稼働改善 運転監視・制御システム&ソフトウェア

プラントの運転業務の省力化を図り、生産プロセスの自動化を推進

群馬県太田市で操業する新洋酸素株式会社は、空気分離プラントとして1971年の操業開始以来、北関東および隣接エリアの産業・医療分野の事業者に対し、酸素、窒素、アルゴンといった産業ガスの供給を行ってきました。現在は、大陽日酸株式会社をはじめ、小池酸素工業株式会社、日本エア・リキード合同会社、関東液酸株式会社の4社が出資する共同生産会社として産業ガスを製造・供給しており、産業技術・製品の高度化に伴うガス需要の拡大に合わせて設備の増強・更新を重ね、生産体制を強化しています。

特に1992年以降は、アズビル株式会社の調節弁や発信器などのフィールド機器を採用し、さらに2015年にはDCS※1についても旧来の海外製からアズビルの協調オートメーションシステム Harmonas-DEO™に置き換えました。それに合わせて運転支援自動化パッケージ Knowledge Power™を導入し、オペレータが手動で行っていた運転の自動化を進めてきました。

Knowledge Powerによる自動化の取組みが本格化したのは、2020年のコロナ禍を受けて、人との接触を極力少なくしようという要請が高まったころでした。また、社会全体で就業者数の減少が進み、当社でもプラントの運転にかかわる業務の省力化・省人化をいかに図っていくかが重要な課題となっていました」(渡辺氏)

一方で、親会社の一つである大陽日酸が、自社や子会社のプラントの操業状態を自社のセンターからリモートで監視・制御する仕組みの構築を進めており、これに向けて監視対象となる新洋酸素でもさらなる生産プロセスの自動化を進めることで省力化の実現が求められていました。

多変数モデル予測制御を導入し、プラント運転を自動化

Knowledge Powerは、操業にかかわるオペレータの暗黙知を標準化し、手順を自動化することで安定した操業を支援するソフトウェアです。例えば「何分後にこういう処理を行う」といったシーケンシャルなワークフローを組み立てることに重点が置かれています。同社が、液体酸素の生産においてKnowledge Powerによる自動化を適用したところ、意図の通りの制御とならず設定していたゴールに到達できないという現象が起きました。

「当社のプロセスでは、例えば同じアクションでも1秒後に結果が出るところと1時間後に出るところがあるなど、そのときの状況によって状態にブレが生じます。それに対しオペレータが随時介在して、設定値変更などの操作を行う必要があるため、リモートでの監視・制御を可能にするという我々が目指す自動化の要件が十分に満たされているとはいえない状況でした」(永井氏)

決まった手順で動作をするKnowledge Powerには、こういったプロセスの対応は難しく、そこで同社が着目したのが高度制御でした。これを受けて2023年6月にアズビルから多変数モデル予測制御 SORTiA™-MPCが提案されました。多変数モデル予測制御とは、対象プロセスの挙動をモデルにより予測し、その予測に基づく制御でプラントを安定化させるものです。今回は定常運転だけではなく非定常運転のプロセス自動化にも適用されました。

「具体的には15秒ごとに操業状態をフィードバックしながら1時間先、2時間先を予測して、プラントのプロセスが求められる挙動となるようにそのときの状況に合わせて少しずつ補正することでブレを吸収し、さながら人が介在したかのような運転を実現するというものです」(永井氏)

SORTiA-MPCの適用にあたりアズビルでは、蓄積された運転データを基に現場担当者へのヒアリングやイベント解析による課題抽出を行いました。その上で新洋酸素での既存操業プロセスを精査し、エンジニアリング担当者がモデル化してチューニングを実施。2024年6月に現場への適用作業を完了させました。

「アズビルの担当者は、ガス製造に使用する空気分離装置についての知見も非常に豊富で、ヒアリングに際して我々から抽象的な言葉で伝えられる内容に対しても、その意図を的確にくみ取り、適切にモデルへ実装してくれました」(関根氏)

アルゴン製造装置に設置され温度を調節している偏心軸回転形調節弁(①)、圧力調整を行っている電気式トップガイド形単座調節弁(②)、スマート・バルブ・ポジショナ(③)。ゲージ圧発信器(④)はサクションタンクのコンプレッサ入り口の圧力測定をしている。

アルゴン製造装置に設置され温度を調節している偏心軸回転形調節弁(①)、圧力調整を行っている電気式トップガイド形単座調節弁(②)、スマート・バルブ・ポジショナ(③)。ゲージ圧発信器(④)はサクションタンクのコンプレッサ入り口の圧力測定をしている。

酸素ガス圧縮機の圧力を調節するトップガイド形単座調節弁(右)と冷却水の流量を計測する電磁流量計MagneW FLEX+(左)。

酸素ガス圧縮機の圧力を調節するトップガイド形単座調節弁(右)と冷却水の流量を計測する電磁流量計MagneW™ FLEX+(左)。

自動化で得られた時間で新業務のスキル習得へ

高度制御の適用により、新洋酸素ではこれまで困難だったプラント運転の自動化を推し進めていきました。併せてアラート出力の最適化も行い、アラート対応にかかったオペレータの負担も軽減しました。予測制御が不要な、装置の起動や停止といった手順を追ってコントロールするものはKnowledge Powerで制御を行い、より高度な制御が要求されるプロセスはSORTiA-MPCで行うといったすみ分けをすることでプロセス全体の自動化が進みました。

「自動化を進める前、オペレータは心配でオペレーションから離れられないと言っていました。今は安心してSORTiA-MPCに運転を任せられる状態になりつつあります」(永井氏)

「今回実現された自動化によって、オペレータのルーチンワークが削減され、それによって生まれた時間は、新たな分野の保全の知識習得に充てるといった取組みを進めているところです」(関根氏)

また、こうした自動化の取組みにより、大陽日酸がグループ内で進めるリモートによる監視・制御に向けた準備も整いました。

今後、新洋酸素では、今回適用した高度制御の精度をさらに高めていくほか、活用領域をプラント操業のトータルな自動化、最適化へと広げていく考えです。

「各種フィールド機器からDCS、高度制御に至る製品をトータルで納入してくれているアズビルは、当社の操業にかかわるビッグデータを扱える立場にあり、そうした取組みにもしっかりと対応できるものと思います。今後の提案を大いに期待しています」(渡辺氏)

中央監視室に設置されたDCSのHarmonas-DEO(①・②・③・④)とSORTiA-MPC(⑤)、Knowledge Power(⑥)のモニタ画面。

中央監視室に設置されたDCSのHarmonas-DEO(①・②・③・④)とSORTiA-MPC(⑤)、Knowledge Power(⑥)のモニタ画面。

※Knowledge Power、SORTiA、MagneWは、アズビル株式会社の商標です。

用語解説

※1 DCS(Distributed Control System)

分散制御システム。プラント・工場の製造プロセスや生産設備などを監視・制御するための専用システム。構成する各機器がネットワーク上で機能を分散して持つことで、負荷の分散化が図れ、安全でメンテナンス性に優れている。

 

お客さま紹介

新洋酸素株式会社 新田工場 常務取締役 工場長 渡辺 良紀 氏
新洋酸素株式会社
新田工場
常務取締役
工場長
渡辺 良紀 氏
新洋酸素株式会社 新田工場 製造部 製造課 課長 永井 篤志 氏
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新田工場
製造部 製造課
課長
永井 篤志 氏
新洋酸素株式会社 新田工場 製造部 製造課 係長 関根 孝一 氏
新洋酸素株式会社
新田工場
製造部 製造課
係長
関根 孝一 氏

新洋酸素株式会社 新田工場

  • 所在地/群馬県太田市新田反町町337
  • 設立/1971年3月1日
  • 事業内容/酸素、窒素、アルゴンなど各種ガスの製造販売

この記事は2025年01月に掲載されたものです。

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