新宿パークタワー
ビル向けクラウドサービスの活用で、建物としての付加価値を向上
東京・新宿にある新宿パークタワーでは、長年利用してきた建物運用システム更新の一環として、ビル向けクラウドサービスを導入。テナント向けサービスの品質向上やエネルギー使用状況の見える化で、テナント側と管理側、双方の利便性が向上しました。新たなサービスへの切替えの際には、操作説明の資料と動画を準備し、既存の運用システムからスムーズに移行。テナントからのニーズに応えられる建物へと進化を遂げています。
建物分野 オフィスビル ホテル ショッピングセンター 複合ビル 快適 省エネルギー エネルギーマネジメント クラウド・IoT・AI 中央監視システム ビル向けクラウドサービス
導入製品・サービス
建物管理システム savic-net FX
長年利用してきた建物運用システムの更新による利便性向上を検討
東京・西新宿エリアの超高層ビル群の一角、北側に緑豊かな新宿中央公園が広がる好立地に位置する新宿パークタワー。3連の三角屋根が目を引く建物は、地上52階、地下5階、高さ235メートルを誇る高層複合ビルとして、1994年4月に竣工(しゅんこう)しました。地下1階から地上7階の低層部には多目的ホールやショップ、レストランなど、9~37階にはテナントオフィス、39~52階の高層部にはホテルというように、「商業」「業務」「文化」の各機能が融合する、魅力ある立体型の街づくりを目指しています。
様々な施設が入居する同ビルでは、ビルの運営にあたって独自の建物運用システムに空調用としてアズビル株式会社の中央監視装置を連動させたシステムを利用してきました。同システムは、テナント区画ごとの水道光熱費の計算ができるビル管理者向けの機能に加え、テナント向けとして専用ウェブサイトからテナントオフィス内の空調運転時間の延長申請や温度設定の変更といった操作が行えるサービスを備え、これまで15年以上にわたりビル管理と入居者の利便性を支えてきました。
「長く利用してきた建物運用システムはOSのサポート期間終了が目前に迫っていました。また、同システムの機能についても空調運転時間の延長予約は、設定可能な期間が最大2カ月先までに限られているなど制約があり、利便性の向上も課題となっていました」(服部氏)
ベンダーを統一し全体をシンプルに運用の効率化を目指す
さらに利便性を高めるべく、新宿パークタワーの運営管理を行っている東京ガス不動産株式会社では、2023年の建物運用システムのOSサポート期間終了に伴い、テナント向けの空調に関するサービスについてシステムの更新を決定しました。
「当ビルは複合施設のためビルの運用管理が非常に複雑な上、建物運用システムと空調の中央監視装置を連携させるためにインターフェースを構築しており、そのインターフェースユニットの更新やメンテナンスに手間とコストがかかっていました。今後を見据えてテナント向けサービスのシステムを空調の中央監視装置と同じベンダーに構築してもらい、システムをシンプルにするとともに業務の効率化を目指したいと考えていました」(服部氏)
そこで同ビルが採用したのが、空調の中央監視装置のベンダーであるアズビルが提案していたビル向けクラウドサービスでした。
「当ビルでは1994年の竣工当初からアズビルの中央監視装置を導入しており、空調制御や制御機器の保守メンテナンス、大規模工事などでも支援してもらってきました。そうした経緯から、ビル設備の運営管理にかかわるアズビルの豊富なノウハウには信頼を寄せており、このビルにとってなくてはならない存在でした」(服部氏)
東京ガス不動産は、2021年にビル向けクラウドサービスの採用を決定。サービス利用にかかわる仕様の策定やデータ移行などシステム環境の整備を経て、2022年3月にサービスの本格利用を開始しました。
テナント向けのサービス向上に貢献、ビル管理者のエネルギー管理業務支援も
ビル向けクラウドサービス TSの空調延長予約画面。テナントのPCやスマートフォンの画面から、オフィス内の空調ゾーンごとに空調運転時間の延長申請をすることができる。また同様に室内温度設定の変更も可能。
ビル向けクラウドサービス TS(テナントサービス)の導入により、建物運用システムでテナント向けに提供していた空調用の機能がクラウド化され、操作画面のデザインもより分かりやすく使い勝手のいいものになりました。テナント入居者は、PCやタブレット、スマートフォンを使って空調運転時間の延長予約や室内の温度設定を行うことができます。リクエストした設定内容はインターネットを介して自動的にアズビルの空調の中央監視装置であるsavic-net™FXの制御に反映されます。更新前のシステムでは1℃単位でしか温度設定の変更ができませんでしたが、TSでは0.5℃単位と、よりきめ細かな設定が可能となり、テナントからも好評だといいます。
また、クラウドサービスの導入に先駆けて、アズビルが数回にわたりテナント向けの説明会を実施。さらに動画を含むチュートリアル※1資料一式を収めたDVDを各テナントに配布するなど、以前のシステムとは仕様の異なるサービスでも快適に利用できるようなサポートも行いました。
「配布されたチュートリアル資料は内容が充実しており、各テナントの皆さまのサービス利用のハードルを下げると同時に、ビル管理側への問合わせを減らす効果も上げています。また、新規で入居されるテナントにこれらの資料を事前にお渡しすることで、入居後すぐにTSを活用いただけるという効果も表れています」(服部氏)
一方、ビルの管理運営側が活用しているのがビル向けクラウドサービス EM(エネルギー管理)機能です。これはビル全体のエネルギー消費にかかわる情報がsavic-net FXからクラウドに収集され、Web画面上で可視化されるようになっています。新宿パークタワーでは、半年に1度行われていたアズビルからの建物のエネルギー消費動向に関する評価・分析の報告に代えて、エネルギー消費の動きをクラウドサービス上でリアルタイムに把握できるようになり、管理レベルを大きく向上させることができました。
ビルの運用にあたっては、省エネ法※2などに定められた報告義務のほか、SDGs※3やカーボンニュートラルといった脱炭素に向けた社会的要請もあり、テナントの間でも自社オフィスや建物全体におけるエネルギーの消費動向をしっかりと把握したいというニーズが高まっています。こうしたテナントのニーズに応えるため、東京ガス不動産では、EM上のデータを適宜テナントにも開示していきたいと考えています。
「ビル向けクラウドサービスの活用は、新宿パークタワーの付加価値をさらに向上させ、テナントの皆さまに選んでいただける建物となることに寄与するものと捉えています。アズビルには今後もその知見を活かし、このビルをより良くしていくような提案を期待しています」(服部氏)
テナント説明用に配布したDVDの説明画像。ユーザーが視覚的に理解しやすいように動画で操作内容を説明している。
中央監視室に設置されたsavic-net FX(手前中)の空調平面図と、savic-net FXビルマネジメントシステム(BMS)(手前左)の電力量グラフを表示したモニタ画面。savic-net FXでは、空調の制御状態を監視しており、BMSでは、機器の台帳管理やエネルギー管理を行っている。大型モニタでは、設備管理員で共有したい情報などを映し出すことができる。
※savic-net、savic-net FXは、アズビル株式会社の商標です。
用語解説
※1 チュートリアル
初歩的な知識や技能を、段階的、実践的に解説したもの。
※2 省エネ法
「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」。工場や事業所が使用するエネルギー量(原油換算)によって「第一種エネルギー管理指定工場等」(3,000kl/年以上)、「第二種エネルギー管理指定工場等」(1,500kl/年以上3,000kl/年未満)をそれぞれ指定し、エネルギー使用状況届出書、中長期計画書、定期報告書といった法定書類の提出やエネルギー管理統括者等の選任を求めている。
※3 SDGs(Sustainable Development Goals)
2015年の国連サミットで採択された、2016年から2030年までの国際目標のこと。「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための17のゴールと169のターゲットが示されている。
お客さま紹介
資産管理本部 技術部
エンジニアリング第一グループ
課長代理
服部 一平 氏
新宿パークタワー
東京ガス不動産株式会社
- 所在地/東京都港区港南2-15-3 品川インターシティC棟22F
- 創業/1953年5月20日
- 事業内容/不動産の開発・賃貸・管理など
この記事は2023年05月に掲載されたものです。