ESG
Environmental(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)の頭文字。社会や企業の持続的成長のためにはこれら三つの観点が必要という考え方。
世界が注目するESG、環境・社会・企業統治
2006年4月、コフィ・アナン国連事務総長(当時)は、あるイニシアチブ(発議)を公表しました。それが「ESG(Environmental, Social, Governance)」を投資プロセスに組み入れる「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」です。背景に短期的利益の追求や売上至上主義への傾倒に対する懸念がありました。アナン氏は金融業界に対して、長期的な投資効果を得るためにはキャッシュフローや利益率などの財務情報による定量評価だけではなく、非財務情報の「Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)」を考慮することを提唱したのです。
それから10年以上が過ぎた今、ESGへの注目度がますます高まってきており、ESGを重視する動きは世界の投資家の間で大きなトレンドとなっています。それは、ある調査*1によると2018年のESGに関する投資の運用残高が約30兆6,830億ドル(約3,528兆円)に及ぶとされていることからも推し量れます。日本でも、2017年7月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:Government Pension Investment Fund)が年金の株式運用に三つのESG指数*2を選定したと発表し、これが大きな話題になったことは記憶に新しいところです。
*1
Global Sustainable Investment Alliance 2018
*2
FTSE Blossom Japan Index、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数、MSCI日本株女性活躍指数
ESGが注目されるのはなぜか?
資本市場では、環境問題や社会問題の影響が最小化されて社会全体が持続可能になることが、長期の投資リターンを追求する上では不可欠という見方があります。ESG投資は、この観点と併せて、環境・社会・企業統治を重視することが結局は企業の持続的成長や中長期的な収益の拡大につながり、財務指標からは見えにくいリスクを排除できるとの発想に基づいています。例えば、前述のGPIFは直接株式を保有しませんが、外部の運用機関を通じて多額の資産を長期的視点で運用するユニバーサル・オーナーです。資産を預かる複数の金融機関はGPIFの意向に基づき資産を運用します。このため、GPIFがESGを重視すれば、おのずと投資先にはESGに配慮した経営に積極的な企業が選ばれるようになり、結果として社会全体の持続的成長につながるとともに、長期にわたって安定したリターンを得ることができると考えられています。
今や資本市場においてESGは投資上の重要な観点となりつつあります。投資を受けたい企業側から見れば、市場で評価されるためにはESG課題に対し積極的に取り組む必要があるということになります。
ESGの対象となるのはどんな要素?
では、具体的にどういった要素が対象になるのでしょうか。
実は「ESGといえばこれ」という世界共通の基準はありません。複数のESG評価機関が独自の基準で評価内容を打ち出しています。ここではいくつかの代表的な要素を挙げます。
◆環境(E):気候変動への対応(二酸化炭素(CO2)の排出量抑制、削減対策など)、生物多様性への貢献、水資源の保全など
◆社会(S):労働環境の整備、雇用などにおける人権尊重・差別禁止、地域社会への貢献、誠実かつ公正な購買活動、ダイバーシティ推進など
◆企業統治(G):透明性ある企業統治、リスクマネジメントなど
実行はもとより積極的な情報開示が重要
ESGというと難しいイメージがあるかもしれませんが、代表的な要素を並べてみると、多くの企業で既に取り組まれているものも多数含まれています。日本では二酸化炭素(CO2)の排出抑制や環境汚染の回避に取り組んでいる企業は多く、地域貢献に熱心な企業も多くあります。
ただし、これらのことに取り組んでいても、投資家に知られなければESG投資の対象としては評価されません。つまり、情報開示が非常に重要なのです。
ESG評価機関は開示された情報を基に評価を行っていますから、企業はウェブサイトなどで取組み内容を明示するとともに、今後の方針や客観的評価のためのデータを開示することが必要です。例えば、「水を大切にしています」というだけではなく、「××××年までに使用量〇%削減」などの数値を示したり、水資源保全のために実施している植樹活動をレポートするなど、具体的かつ客観性のある情報を開示することが大切なのです。
株式市場での評価に影響力を持つ内容であるだけに、ESGの情報を目にする機会は今後ますます増えていくことでしょう。
この記事は2019年06月に掲載されたものです。