フェールセーフ
工場の生産現場をはじめ、様々な場所で用いられる機器や装置、設備、システムにおいて、誤動作、誤操作などが発生した際に、自動的に安全側に導くような仕組みをあらかじめ設計し構造に組み込んでおくという考え方。
「物は必ず壊れる」を前提に事前に安全設計する発想
自宅などの生活空間や店舗、工場など様々な場所で稼働している設備、機器装置類で部品の損傷や劣化により正常に作動しなくなったり、システムでは誤動作・誤操作が発生したりする事態が起こる可能性があります。部品であれば設計上の工夫で耐久性を高めたり、適切なメンテナンスを施したりすることで故障を未然に防ぐことはできます。しかし、損傷や劣化自体を完全に免れることは難しく、言い換えればシステムは誤動作するもの、設備や装置、機器類は故障するものと捉える必要があります。
仮にそうした誤動作・故障が発生し、正常に機能できなくなった場合、設備などの用途、種類によっては、人の安全を脅かす事態も考えられます。こうしたリスクを見込んで、誤動作・故障時には必ず安全側に導くような仕組みを、あらかじめ設計の段階で構造に組み込んでおくというのがフェールセーフの考え方です。
異常を感知したら機能を停止、人の安全を守ることを最優先に
フェールセーフの身近な例として、電車の踏切があります。遮断機は通常、電力によって遮断桿(かん)の上げ下げを行っており、上がっている状態を維持するにも電力が必要です。万一、制御装置の故障や停電などで通電されない場合には、遮断桿自体の重みで下りたままとなり、通行者が踏切内に進入できない状態を保つことで事故が発生するリスクを回避するように設計されています。
故障だけでなく、人為的なアクシデントや災害を想定して設計しているケースもあります。例えば電気ストーブは、機器の転倒や地震などの振動を感知すると電源が切れる機構を備えています。石油ストーブにも同様の対震自動消火装置を搭載した製品が数多く市場に流通していることは周知のとおりです。つまり、転倒によりストーブの「暖を取る」という機能を安全に提供できない状態になると、自ら火災事故のリスクを回避するように動作して、安全を確保する仕組みになっているのです。
また、様々な工場設備や工作機械が稼働するものづくりの現場においても、労働災害防止の観点からフェールセーフは欠かすことができません。機械側で何らかの異常を感知したときに直ちに運転を自動停止する機能、あるいは作業者が異常を感じたり、作業中にトラブルが発生した際に速やかに運転を停止するための非常停止用回路など、機械や設備に各種安全装置が装備されていることがものづくりの現場における基本的な要件となっています。
安全設計の高度化により労働災害を防止、誰もが安全・安心に働ける環境へ
以上のように、フェールセーフは、「物は壊れる」「人はミスをする」を前提として、故障や誤操作、災害などのアクシデントが発生しても安全な状態に導くようにするという安全設計の考え方ですが、これに類似する設計上の概念に、「フォールトトレランス(Fault Tolerance)」「フールプルーフ(Fool Proof)」があります。
フェールセーフが機能を“停止”させるのに対し、フォールトトレランスは、設備などに障害や不具合が発生しても機能を“維持”することで、安全を守ろうという設計手法です。主に機能の停止が人命にかかわるような領域で適用されている概念で、電源の二重化など、予備装置を設けておく“冗長化”が基本となります。航空機はその典型で、機器類の故障などにより「飛行する」という機能が停止すると大惨事につながることが考えられるため、エンジンや操縦装置を複数設けておくことで、耐障害性を実現するとともに安全性を保っています。
一方、フールプルーフは、人は操作ミスをするものだという前提に立ち、誤った利用で人が危険にさらされたり、機器の破損を招いたりするような事態を生じさせない仕組みにするという考え方です。洗濯機のふたを閉じないうちはドラムが回転しなかったり、ブレーキを踏んでいなければ自動車のエンジンをかけられなかったりするのも、フールプルーフの身近な例といえるでしょう。製造現場でも、工作機械などの操作ミスが身体の危険に直結しない、さらにはそもそも誤った操作が行えないようにする仕掛けが機器や設備の設計に多く組み込まれています。
特に今日では、産業分野をはじめとする広範な領域で労働力人口の減少が課題となっており、人員確保のための外国人の雇用受入れも重要なテーマとなっています。言語や文化、習慣の異なる労働者が作業する現場で、労働災害を防ぎ安全性を十分に担保するためには、フェールセーフに代表される安全設計の導入が不可欠だといえます。設備や装置、機器そのものの安全性を高める機構の装備、関連技術のさらなる高度化が、今後ますます求められるでしょう。
この記事は2023年06月に掲載されたものです。