IoT(アイ・オー・ティー)
道具や機器などのモノがネットワークで直接的・間接的につながる状態や仕組みのこと。これを用いて付加価値を追求する取組みも指す。
モノとモノとがネットでつながり新しい付加価値が生まれる
情報収集に役立つインターネットは、人と人をつなぐツールとしても欠かせない存在になりました。メールで連絡を取り合うだけでなく、SNSで世界中に交友関係を広げている人も多いことでしょう。
では、身の回りの道具や機器がインターネットでつながったら、どんな世界が広がるのでしょうか。このことを考えるときに使われるのが「Internet of Things(IoT)」 という概念です。様々な「モノ」が通信機能を介してつながる状態や仕組みを意味する言葉で、日本語では「モノのインターネット」と訳されています。
20世紀末に生まれたこの言葉は様々な分野で注目されています。製造業を例に見てみましょう。ここ10年間でモノの状態を測るセンサや無線通信用のモジュール(部品)、データを集積・解析するICT※1基盤など、IoTを形づくる技術が大きく進化しました。これを受けて昔なら夢物語と思われていた仕組みやサービスが実現可能になり、新しい付加価値を追求する動きが活発になっているのです。
具体的なIoTの取組み方は業種や企業によって異なりますが、共通する目標として製品やサービスの品質向上と効率化が挙げられます。例えばLPガス(プロパンガス)の供給を考えてみましょう。各家庭にあるボンベにセンサと通信機能を取り付けてガス残量を遠隔で把握できるようにすれば、ガス切れが起こる前に配送・交換が可能になります。その結果、ユーザーの利便性は高まり、ムダな配送が減って業務 効率も高まります。
IoTの有名な成功事例に建設機械(建機)メーカーの取組みがあります。このメーカーでは油圧ショベルやブルドーザーに位置やエンジン温度などを測るセンサを組み込み、そのデータを衛星回線などで収集するシステムを構築しました。これによりユーザー企業は、世界中の作業現場に配備した建機の種類や台数、稼働状況を遠隔で把握し、運用を最適化することが可能になりました。さらに何万台もの建機から集まる生の稼働データは、異常の早期発見や効率稼働のためのアドバイスといった高度なサポートサービスの提供に活かされています。
世界中でIoT推進の動きが本格化。一層の効率化や利便性を求め産業と社会の大変革が始まる
企業が競争力強化のためにIoTを活用する取組みは世界中で始まっています。米国では、様々な業種のグローバル企業が参画し「Industrial Internet(インダストリアル・インターネット)」構想を推進しています。発電用タービンや輸送機器のエンジンなど、産業用設備・機器で測定したデータを集積・分析するための基盤(プラットフォーム)を整え、効率運用やトラブル発生の察知・予測などに役立つ知見を引き出しやすくすることで、コスト削減や安定稼働、安全性向上といった成果につなげていく考えです。
一方、産官学が一丸となってIoTを推進しているのがドイツです。輸出への依存度が高い製造業の競争力を強化するため、ドイツ政府は2011年に「Industrie 4.0(インダストリー4.0)」という政策を掲げました。生産設備の状態や制御、生産管理などのシステムを統合する「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」を構築し、工場で起きていることを隅々まで把握・分析可能にして、特に中小企業の生産性 や品質を底上げするのが狙いです。さらに多品種・少量生産を効率化する「スマート・ファクトリー」を目指し、生産技術の標準化を進めることでグローバル市場において確固たる地位を築く構えです。
日本企業のIoT投資も活発になってきました。2014年6月にはIT戦略の基本方針となる「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、政策面での期待も高まりつつあります。今後は先行する米国やドイツに追随するため、産業界全体で連携し、スピード感を持ってIoTを主導する取組みが期待されます。
様々な付加価値をもたらすIoTは、毎日の暮らしをより便利にするだけでなく、社会の仕組みや人間の考え方までも一変させる可能性を秘めています。私たちは今、モノとモノがつながり、人間とモノまでもつながるという、時代の大きな転換点に立っているといっても過言ではありません。
※1:ICT
Information and Communication Technologyの略で、情報と通信に関する技術のこと。コンピュータとネットワークを用いた情報活用のための製品やシステム、サービスなども指す。
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この記事は2015年12月に掲載されたものです。