MEMS

半導体製造技術を基にした微細加工技術などを応用し、シリコンなどの基板を用いてセンサ、電子回路などの機械要素部品を集積させた超小型デバイス/システム。機器の小型化や省電力化、高機能化、低コスト化などに応用される。

マンガ:湯鳥ひよ/ad-manga.com

様々な機器の内部で多種多様なMEMSが活躍

今や私たちの日々の暮らしに欠かせないツールとなっているスマートフォン。電話をかけたり、インターネット上から様々な情報を入手したり、音楽や動画、ゲームを楽しんだり、自分の位置情報を知ったりと、もはやスマートフォンのない生活は考えられない世の中となっています。

そんなスマートフォンが提供する多種多様な機能を筐体内部で支えているのがMEMS(Micro Electro MechanicalSystems)です。MEMSとは、微小な電気要素と機械要素を一つのチップに組み込んだ、センサをはじめとする各種デバイス/システムを指し、微小電気機械システム、あるいはマイクロマシンと呼ばれることもあります。

スマートフォンの機能を例に挙げると、位置情報の検出にはGPSセンサのほかに磁気センサや圧力センサなどが使われており、スマートフォンの向きを変える動きに追随して画面が自動的に回転する機能には加速度センサが使われています。そのほか、周囲の明るさに応じた画面輝度の自動調 整は環境光センサによって実現されています。それら一連のセンサ類に加え、スマートフォンが搭載する超小型のマイクやスピーカーといったデバイスもMEMSの一種です。

もちろん、ここで取り上げたスマートフォンは、あくまでもMEMSを搭載した製品の一例です。ほかにも自動車やプリンタ、映像機器、健康機器をはじめとする我々の身の回りにある製品、そしてオフィスビルで利用されている空調設備や、工場で稼働する製造機械などに至るまで、広範な分野の機器に組み込まれています。まさにありとあらゆる場面において、人々の暮らしや産業活動に大きな貢献を果たしているのです。

半導体製造における微細加工技術を活かし誕生

MEMSは電気要素と機械要素、具体的にはセンサやアクチュエータ、電子回路などを一つのチップ上に組み込んだものが一般的な構造となっています。ここまでの技術の発展に重要な役割を果たしたのが、半導体製造における各種の微細加工技術やレーザー加工技術です。

例えば、これまで半導体の集積回路は2次元構造となり、その製造では、回路線幅を細くして回路を小さくし、多くのトランジスタを集積することで、消費電力を下げながら性能を向上させるということが追求されてきました。そうした中で1メートルの100万分の1に当たるマイクロメートルと いうオーダーでの微細加工技術が実現されてきたからこそ、複雑で高度な機械的特性を持った3次元構造のMEMSが可能になったというわけです。

また、半導体の集積回路に採用されてきたシリコンチップ自体も、MEMSを実現するための重要な要素となりました。通常、半導体には極めて高純度の単結晶構造のシリコンが用いられますが、シリコン結晶は鉄などのほかの素材に比べて非常に安定しており、電気的特性の制御に適しているという利点があります。加えて、シリコンは3次元加工しやすいという点も、MEMSの製造にとって大きなメリットです。このように優れた基板材料であるシリコンの存在も、MEMSの実現とその後の発展を支えてきた一つの原動力だといえるでしょう。

なお、シリコン以外にサファイアやセラミック、ガラスといった素材もMEMSの基板材料として利用されています。例えばサファイアは耐熱性、耐蝕性に優れていることから、産業分野の機器に組み込むMEMSに利用されるなど、幅広い用途での活用が期待されています。

スマートフォンや自動車、家電など、生活を彩る様々な機器。それらは、デジタル技術の革新を背景に今まさに加速度的に進化を遂げ、私たちに新たな便利さや快適さ、楽しさといった価値を提供しています。こうした進化も、デジタル機器の内部で人知れず働くMEMSの存在を抜きに語るこ とはできません。“縁の下の力持ち”として私たちの暮らしや社会活動を支えるMEMSはさらに小型化することで進歩しています。これから先、どんな未来が待っているのかとても楽しみです。


この記事は2020年04月に掲載されたものです。