リスキリング
新しい職務や職種に就くため、あるいは、今の職務や職種で求められるスキルの変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること。
デジタル社会で求められるスキルの変化を受けて
産業界の最重要キーワードの一つになっているデジタルトランスフォーメーション(DX)*1。デジタル関連技術の急速な発展に伴い、そう遠くない将来、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合した世界が開けていくといわれています。ありとあらゆるデータがリアルタイムで共有・活用される本格的なデジタル社会が到来することから、企業はその社会に適合する新規事業の開拓や、既存事業の改革を迫られています。
社会の変化による影響は一人ひとりの従業員にも及びます。かつては数字を扱う上でそろばんの技術が必須でしたが、時代とともに計算ツールはそろばんから電卓、パソコンや表計算ソフトなどへと置き換わり、身に付けるべきスキルも変化してきました。
また、近年はデータアナリストやAIエンジニアなど新たな職種が注目されています。このような職種の誕生は社会で必要とされるスキルや知識の変化を象徴しているといえますが、今はまだ担い手が足りていないのが現状です。
こうした中で生まれた言葉が「リスキリング」です。端的に言えば業務を行う上で必要とされる新しいスキルや知識などの学び直しを行うことで、一般に企業による戦略的な人材育成を指します。企業は社会の変化を見据えて事業戦略を組み立てており、従業員が戦略に基づき事業を遂行するには様々な新たなスキルや知識を身に付けていかなければなりません。そのためリスキリングは企業が戦略を実行するために欠かせない施策といえます。
正解がない課題に向き合い、新たに生み出す力が必要
リスキリングは事業戦略に基づいて行われるため、具体的な学びの内容は企業によっても、部署や職務によっても変わります。データサイエンスやAIのような専門的な知識を求められることもあるでしょうし、情報リテラシーのように、業種・業界に関係なく、多くのビジネスパーソンに共通するテーマもあります。デジタル化がもたらす技術革新やビジネスモデルの変化は多岐にわたるため、どのような知識やスキルが自社にとって必要となるかを見極めた上で、リスキリングをしていくことが重要です。
また、多くの企業に共通するテーマとしてもう一つ注目すべきは「考える力」です。これまでのスキルアップ研修や従業員教育では手を動かして技術を習得したり、特定分野の知識を体系的に獲得したり、何かしら学びのゴールが見えているものが多かったのではないでしょうか。しかし今ビジネスの現場で必要とされているのは、DXに象徴されるように、変革を実現するために自らの発想で新たに何かを生み出す力、潜在的な課題を解決に導く力です。
このような傾向から、“考える力”を身に付けるためのプログラムも多数開発されています。例えば、参加者にあらかじめ必要な情報をインプットした上で少数のグループに分かれて議論してもらい、新しい事業案や課題解決策などを導き出してもらうといったプログラムもその一つ。正解がない課題と向き合い、自分たちで考えて生み出す体験を通して必要なスキルを磨いていきます。
リスキリングを通して高まるエンゲージメント*2
リスキリングは企業が主体となり、従業員がその職で価値を創出し続けるために 「必要なスキル」を学ぶ機会を提供します。従業員はリスキリングを通して新たなスキルや知識を獲得することで社内における成果を上げられたり、新たな業務に挑戦できたりと、自らの成長を実感することができるのです。その成長は企業が求める方向性と合致するため、従業員は企業の発展に貢献している実感を持つことができ、働くことへの意欲や働きがいが高まると考えられます。
ある企業では市場変化を背景に主力事業が転換期を迎えたため、組織変更に加えて従業員を別部署に配置換えすることにしました。従業員にとっては業務内容の変化に伴う負担は小さくないため、リスキリングプログラムを充実させて異動になる従業員に受講してもらったところ、受講した従業員は新しい職務に順応できただけでなく「新たなスキルが身に付いた」など、喜びの声も上がったといいます。
従業員は就業年数が延びてくる中で、リスキリングを通して、常に新たなチャレンジができること、そして活躍できる場を広げていくことが期待されています。
*1:DX(Digital Transformation)
進化したデジタル技術を浸透させることにより、人々の生活をよりよいものへと変革すること。
*2:エンゲージメント
人事領域において 「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」といった意味で用いられる概念で、所属している組織に対する愛着心や自発的な貢献意欲、従業員と組織の双方向の信頼関係性や結びつきの度合いを指す。
この記事は2023年03月に掲載されたものです。