リスクアセスメント
製品事故を予防するための手法。製品を使って起きるケガなどを想定し、そのひどさと起こりやすさを見積もり、そのひどさと起こりやすさの組み合わせ(リスク)が許容できる大きさなのか評価すること。
製品の安全性を保つことが、ものづくりにおいて不可欠
製品の安全の重要性が以前にも増して指摘されるようになっています。
安全に問題がある製品は、ユーザーがケガをしたり万一の場合は命にかかわるような事態を招いたりします。このような製品事故は、被害に遭われた方への影響だけでなく、企業に対する信用やブランド力の低下、売上の低下や製品のリコール費用で莫大な経済的損失が生じるなど、企業経営にも大きな影響を及ぼします。
このことから、ものづくりにおいては品質の追求だけでなく、ユーザーの視点に立ち、製品による事故を防ぐ安全への取組みが不可欠といえるでしょう。そのために有効なのが、リスクアセスメントです。
「リスク」はいろいろな状況で用いられる言葉ですが、製品安全の分野では、その製品の使用による危害のリスクは大きい、許容できないなどといった使い方をします。製品の安全に絶対はありませんが、リスクアセスメントとリスク低減のプロセスを通じて大きな危害のリスクを減らし、許容できるレベルまで低下させることができるのです。
ノウハウを基にリスクを想定・評価、真に有効なリスク対策を施す
では、製品のリスクアセスメントは、どのようにして行うのでしょうか。一般的によく使う方法は、次の四つのプロセスを経る方法です。
まず、「その製品を、誰が、どのような状況で使う可能性があるか」を想定します。例えば、洗濯機なら「大人がマニュアル通りに使用する」のが普通ですが、「子供がフタの上に乗ってしまう」という状況も考えられます。こうした誤った使い方も含めて、現実に起こり得る状況をできるだけ多く挙げていきます。「洗濯機を逆さまにして使う」という誰が考えても非常識な使い方については想定から省きます。視点の漏れを防ぐため、マーケティングや営業などの設計部門以外のスタッフから広く集めた意見、経験・ノウハウの豊富なベテラン社員からの意見も欠かせません。
次に、「それぞれの使用状況においてどのようなハザード(危険源)と危害シナリオがあるか」を考えます。洗濯機であれば、ホースと蛇口のつなぎを間違えたりすると水が漏れ、ぬれた床で滑って転ぶことがあるかもしれません。その水がコンセントにかかって感電する可能性もあります。水や電気といったハザードから、多様な危害シナリオを考えます。
第三に、危害シナリオごとに「リスクを見積もる」作業を行い、最後に「リスクを評価する」作業に入ります。リスクの見積もりと評価方法のうち、代表的なものは日本科学技術連盟が開発したR-Mapという手法です。
R-Mapでは、横軸に「危害の程度」を、縦軸に「発生頻度」を取ったマトリックスを作ります。そして、危害シナリオから危害の程度と発生頻度を見積もり、マトリックスの上においてリスクを評価します。
マトリックスは、想定した危害が許容できないリスクを持つ領域(A領域)、危害のリスクを最小限まで減らさなければならない領域(B領域)、想定される危害が許容されるリスクを持つ領域(C領域)に分かれています。その危害がA領域かB領域にあった場合、対策を行って想定される危害の程度を減らしたり、発生頻度を下げたりしてリスクの大きさをC領域にします。
洗濯機のカドがとがっていて、ぶつかるとケガをする可能性がある場合、カドを丸めれば想定される危害の程度を減らすことができます。また、ホースのつなぎの形や材料を工夫することで、水が漏れる頻度を低くすることができます。このように、リスクアセスメントと対策を設計に盛り込むプロセスを繰り返して、危害をC領域になるまで下げます。
間違った使い方などによって起きる危害など、設計の工夫や改良でリスクが下がりきらない場合は、「感電のおそれがあります」といった注意を製品に表示するなど正しい使い方を促してリスクを下げます。
私たちが普段使っている製品の多くは、このようなリスクアセスメントを通してリスクを許容される範囲まで小さくして提供されています。
安全の基準は時代とともに変化しますし、安全に関する技術も日々、進化を続けています。製品の安全を追求する取組みには、終わりはありません。
この記事は2017年02月に掲載されたものです。