SBT

日本語では「科学的根拠に基づく目標」と呼ばれる。2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議で採択された「パリ協定」が求める水準と整合した、5~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。

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2015年パリ協定に基づく科学的根拠を持つ目標値

2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」。京都議定書の後継といえるものですが、大きな違いはすべての国が自ら実行可能な温室効果ガス(GHG:GreenhouseGas)排出削減目標を策定し、それを持ち寄って地球規模の対策につなげていく点です。

パリ協定が目指しているのは「世界の気温上昇を産業革命前より2℃よりも十分に低く保つとともに、1.5 ℃に抑える努力を追求すること」。これは国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のレポートなどから導いた科学的根拠に基づく行動目標です。

SBT(Science Based Targets)とは、企業が5〜15年先を視野に、パリ協定の温度目標を達成できるように定めたGHG排出削減目標のことです。各企業のGHG排出削減目標を共同イニシアチブである「SBTi」*1に申請し、基準を満たした目標値についてSBTと認定されます。

当初、SBTiの認定基準は「2℃を下回る水準」でしたが、2018年にIPCCが発行した「1.5℃特別報告書」にのっとって、2019年10月に「2℃を十分に下回る水準」「1.5 ℃に抑える」と基準が改定されました。よって、新たな基準に照らし合わせて、企業は最低でも5年ごとに目標値を見直す必要があります。


*1: SBTi(Science Based Targets initiative)
企業に温室効果ガスの排出量削減に関する「目標策定」と「公約」を促す共同組織。

SBTの取組みが企業の資金調達に大きく影響!?

SBTの設定は義務ではありませんし、達成のインセンティブも未達成の罰則もありません。それにもかかわらず、多くの企業がSBTの設定に取り組んでいます。2020年6月10日時点、SBT認定取得企業は369社、2年以内のSBT設定をコミットしている企業は510社です。日本企業はこのうちの68社と24社で、参加企業数は増える一方です。

近年、SBTを設定する企業が増加している背景として、機関投資家が投資先を評価する指標として中長期的視点を持った環境施策に注目しており、積極的に環境の取組みを推進する企業を高く評価する動きがある、ということがいえます。

転換点の一つとして年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年から環境を含むESG*2の要素を考慮して投資先を選定し始めたことが挙げられます。GPIFは公的年金という資金の特性上、中長期的な観点で市場を捉えて企業を評価します。気候変動対策は中長期的な取組みですから、それが事業計画に反映されている企業は中長期的視点を持っているといえます。また、将来への投資という意味でも、環境施策の長期的な視点が評価 される傾向があります。

投資市場におけるGPIFの存在感や影響力は絶大です。いま、世界の機関投資家は企業の環境対策を取りまとめたカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)*3のレポートをはじめ、様々な環境関連情報を参照しており、SBTもその一つに位置付けられています。


*2: ESG
Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の三つの言葉の頭文字を取ったもの。

*3:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)
機関投資家が連携し、企業に対して気候変動への戦略や具体的な温室効果ガスの排出量に関する公表を求めるプロジェクト。

サプライチェーン全体でGHG排出削減に取り組む

SBTを策定するためにはGHG排出量を把握する必要があり、GHGプロトコル*4に準拠して計算します。ここで重要なことはGHG排出量を企業単独ではなく、材料の調達から製品の廃棄などを含むサプライチェーン全体を範囲とするという点です。

サプライチェーン全体のGHG排出量は、スコープ1(直接排出量)、スコープ2(エネルギー起源間接排出量)、スコープ3(その他の間接排出量)に分類できます。例えば、工場内で燃料を燃焼させればスコープ1、電気ならばスコープ2。工場で使用する材料の調達や輸送、さらに工場から出荷した製品の使用や廃棄におけるGHG排出量はスコープ3、といった具合です。

SBTはスコープ1と2の目標設定の基準と異なり、スコープ3は「野心的な目標」という表現となっています。自社のスコープ3は他社のスコープ1と2と捉えることもできますので、サプライチェーン全体で取り組むことにより、社会全体のGHG排出削減につながることが期待されています。

こうした取組みが広がれば、取引先にSBTの設定を呼び掛ける企業が出てくるかもしれませんし、「環境対策が不十分な企業とは取引をしない」と宣言する企業が登場するかもしれません。あるいは、SBTiのウェブサイトでは参加企業と申請予定企業の一覧が閲覧できますから、申請予定の企業にコンサルティングを提案するなど、SBT基軸のパートナー探しや営業活動も考えられます。

企業にとって中長期的視点を持った環境施策は、資金調達や営業活動にも直結する重要な攻めの施策といえるでしょう。


*4: GHGプロトコル
温室効果ガスの排出量の算定および報告の基準。


この記事は2020年08月に掲載されたものです。