SI値

地震の大きさを表す指標の一つで、住宅や工場などの建物がどれだけ大きく揺れるかを数値化したもの。米国の地震学者ハウスナー(G.W.Housner)氏が1961年に提唱した。

マンガ:湯鳥ひよ/ad-manga.com

住宅や工場などへの被害や気象庁が観測する計測震度との相関関係が明らかに

未曽有の被害をもたらした2011年の東日本大震災は、世界中の人々に自然災害の恐ろしさを認識させました。同時に、いつどこで起きても不思議ではない地震から命を守るには、日ごろの備えが大切であることをあらためて知る契機となりました。

地震の大きさを表す指標(ものさし)には、いくつか種類があります。ある地点における揺れの度合いを表す「震度」や、発生したエネルギー量で規模を表す「マグニチュード」は、テレビの地震速報などで耳にすることでしょう。また一般的な地震計では、地面や建物が揺れ動く度合いを 「加速度」として観測します。この値は防災対策の検討、建物の耐震性判断などの指標として広く用いられています。

これらに加えて、地震の影響の大きさを見定める指標として昨今注目を集めているのが「SI値」です。

SI値とは「地震によって一般的な建物にどの程度の被害が生じるか」を数値化したものです。住宅やビル、工場などは、それぞれ特有のリズム(固有振動数)で揺れ続けると損壊する可能性が高くなります。そこで、こうした建物が最も大きく揺れるときの速度(速度応答スペクトル)を解析し、その平均値から影響を捉えようとするのがSI値です。単位には「cm/s(毎秒センチメートル)」が使われます。

この指標は、1961年に米国の地震学者であるハウスナー氏が提唱しました。それから半世紀たった今になって注目されているのは、SI値と実際の建物被害との間に高い相関関係があることが分かってきたからです。

過去の地震観測データを基に指標と被害の関係を調べたところ、指標として広く使われている最大加速度については「値が大きいほど建物に被害が発生するとは言い切れない」というケースが目立ちました。一方で約30cm/sを超えるSI値を観測した地域では、大半のケースで建物に被害が発生していたことが分かりました。

さらにSI値は、気象庁が各地で観測している「計測震度」※1とも相関性が高いことが分かってきました。つまり地震が起きたときにSI値を算出すれば、そこから震度や建物被害の程度を推定できるというわけです。

地震の影響を速やかに見定め、二次災害の防止に役立てる

もちろんSI値から推定する地震の大きさが被害と正確に一致するとは限りません。しかし一定の精度で地震の程度が分かれば、被害を最小限にとどめたり、二次被害を防止したりといった「次の行動」を起こしやすくなるでしょう。防災対策を考える上でも、SI値を基準にすることで、より現実的な被害想定に沿った形で計画を立てることにつながります。

地震発生時に工場やインフラの稼働を止める判断にもSI値が適用されつつあります。例えば化学プラントのような危険物を取り扱う場所では、火災や爆発、有害物質の排出などを防ぐため、危険が予測されるときは迅速かつ安全に操業を停止することが強く求められています。そこにSI値を算出できる地震センサを設置し、基準値を超えたら諸設備を自動で停止する仕組みを組み込めば、初動対応の遅れを回避できます。逆に操業停止の必要がないときにまで停止してしまう可能性も、より被害との相関性が高いSI値を基準にすることで小さくできます。

このSI値にいち早く着目し、実際に防災対策に役立てているのが各地の都市ガス会社です。地震で地中のガス管が破損すると、漏れたガスによって広域火災を引き起こす危険性が高まるため、被災地のガス供給を速やかに止められる体制を整備することがガス会社の長年の課題でした。

そこでガス会社は一定のエリアごとに設置されている「地区ガバナ」※2に地震センサを設置。地震発生時には、各地点のSI値のデータを集約して被害状況を把握し、所定の基準値を超えた地域ではガスの送出を自動、または指令センターからの遠隔操作で遮断できるようにしています。

このほか、鉄道会社が列車の運行を中止するかどうかや、自治体の水道局が配水池からの水の供給を止めるかどうかを決める際にも、SI値を判断材料の一つに用いることが増えています。

SI値を算出できる地震センサが安価になってきたことも、こうした取組みを後押ししています。今後SI値の適用範囲がさらに広がり、防災対策の指標としての有用性が高まるにつれ、地震に強い社会の実現に近づくことでしょう。

※1 気象庁が各地で観測している「計測震度」
気象庁が全国約4300地点に配備した専用震度計で観測した震度のこと。この値に応じて10段階の震度が決まる。

※2 地区ガバナ
工場から送られてくるガスの圧力を、一般家庭につながるガス管に適合するように安定させる機器(整圧器)。


この記事は2014年10月に掲載されたものです。