TCFD
G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)が設置した専門組織「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の略称。投資家がESG*1の視点に立った適切な投資判断ができるようにすることを目的に、気候変動に伴う財務上の影響についての情報開示の枠組みに関する提言を行っている。
財務にかかわる気候関連情報を開示、適切な投資判断に役立てる
18世紀の産業革命以降、大気中に含まれる二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)*2が急速に増大しています。地球の温暖化による気候変動は、自然環境や人々の暮らしに様々な影響をもたらすとされ、SDGs*3においても17のゴールの一つとして「気候変動に具体的な対策を」が掲げられています。
また近年は、ビジネスや金融市場においても気候変動の影響が重要視されています。気候変動は持続可能な社会実現に向けた課題であるだけではなく、気候の変動に起因する自然災害の発生や、GHGの排出量削減などの環境対策・法規制により、予期しないビジネス上の損失や利益をもたらすものでもあるからです。投資や金融の視点から捉えれば、このような気候関連リスクの財務への影響は、企業を適切に評価する上で極めて重要です。
そこで2015年、G20の財務大臣・中央銀行総裁は、世界主要国の中央銀行や金融当局により構成された金融安定理事会(FSB)に対し、投資家などが必要とする情報の開示についての検討を要請。それを受けて設置されたのが気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)です。そのミッションは、気候変動に関連する財務上のリスクおよび機会に関する情報を、一貫性、比較可能性、信頼性、明確性を持つ効率的な形で開示することを企業に促し、それをもって投資家が適切な投資判断を行えるようにするというものです。
気候変動のリスクと機会について情報開示するための枠組みを提示
2017年6月、TCFDは企業の自主的な情報開示のあり方に関する提言をまとめた最終報告書を公表。気候関連情報において開示が推奨される基礎項目として「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の四つを提示しました。この四つの開示基礎項目のうち最上位に位置付けられているのが一つ目の「ガバナンス」です。そこでは気候関連のリスクおよび機会に対し、取締役会による監督体制や、評価・管理する上での経営者の役割について情報を開示します。二つ目は「戦略」で、気候変動のリスクおよび機会が事業や戦略、財務に及ぼす影響などについて開示します。三つ目の「リスク管理」では、気候変動に伴うリスクを識別し、評価・管理するためのプロセスを、四つ目の「指標と目標」では、気候関連リスクと機会を評価・管理するために用いる指標と、それを遂行していく上で定めるKPI*4や目標を明らかにします。仮にGHG排出量を例に取るなら、排出原単位*5に関する指標をどう設けたか、また削減目標や目標期間などを開示することになります。
なお、ここで述べられている「リスク」は、自然災害など気候変動が直接もたらすリスクのほかにも、温暖化対策に向けた税制や規制の強化など気候変動に関連した政策に伴うリスクも考えられます。一方、環境関連の事業などを展開する企業であれば、温暖化対策への取組みが新たなビジネスの「機会」を生み出すことも考えられます。
TCFDの最終報告書は、このように気候変動のリスクと機会をトータルに捉えて財務上の影響を分析し、年次の財務情報として開示していく方法を提示したものです。
関連の取組みがグローバルで加速、国内でも金融庁を中心に検討が進む
こうしたTCFDの提言を受け、各国でも気候変動に関する情報開示の取組みが加速しています。英国ではロンドン証券取引所プレミアム市場の上場企業に対し、TCFDの提言に沿った開示を要求。米国証券取引委員会でも、気候変動リスクの開示に関する現行ルールの見直しについて、国際的な開示基準に準じるなどの検討を行っています。
一方、我が国においては、2021年6月に東京証券取引所が上場企業の行動規範となるコーポレートガバナンス・コードを改訂。最も上場基準が厳しいプライム市場の上場企業を対象に、気候変動にかかわるリスクおよび機会が事業活動や収益に与える影響について、データ収集と分析を行い、TCFDの提示する枠組み、あるいはそれと同等の国際的枠組みに基づいて開示することを求めています。また金融庁でも、上場企業や一部の非上場企業が提出する有価証券報告書における気候変動リスクに関する情報の開示について検討が進められています。
環境・社会・ガバナンスの視点を踏まえたESG投資の必然性が強調される中、気候変動がもたらす財務上のインパクトについての情報開示を求める動きは加速しています。企業にとってTCFDの提言への賛同を示すことは、ESG経営のアピールになるほか、情報開示を行うことで自社の気候関連リスクと機会についての理解が深まり、将来の不確実性に対応した戦略が立てられます。また、気候変動への対策はSDGsの達成にもつながるため、今後も賛同企業が増加することが予測されます。
*1:ESG
Environmental(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)の頭文字。社会や企業の持続的成長のためにはこれら三つの観点が必要という考え方。
*2:温室効果ガス(GHG)
大気圏にあって、地表から放射された赤外線の一部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体の総称。
*3:SDGs(Sustainable Development Goals)
2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標で、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための17のゴールと169のターゲットが示されている。
*4:KPI(Key Performance Indicator)
重要業績評価指標。業績管理評価のための重要な指標で、組織の目標達成に向けた進捗具合を把握することができる。
*5:排出原単位
1単位当たりの活動量から排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの量。
この記事は2022年07月に掲載されたものです。