サーモグラフィ
様々な物体の表面温度を赤外線エネルギーの強さを基に計測し、その分布を画像として表示する機器のこと。
物が放つ赤外線を感知して表面温度を測定・可視化する
運動や入浴などの後、体の各部の温度が上下する様子を赤や緑、青で色分けして表示する──。「サーモグラフィ」が映し出すこんな画像をテレビ番組などで見たことのある人は多いでしょう。危険なウイルスの国内流入を防止するため、空港などの検疫所にサーモグラフィを設置して入国者の体温を監視したという報道も記憶に新しいところです。
サーモグラフィとは、いわば「温度を画像化するデジタルカメラ(デジカメ)」です。あらゆる物体※1は、赤外線という電磁波を表面から放射しています。この赤外線のエネルギーの大きさを基に温度を算出した上で、その高低に応じて“対象物”を色分けして画面に表示するのが基本的な機能です。
一般的な温度計と比べ、サーモグラフィには主に三つの利点があります。第1に対象物の温度を「点」ではなく「面」で測定できることです。サーモグラフィのレンズの奥には、赤外線を感知する素子※2が格子状に何個も並べられています。これらの素子が赤外線エネルギーの大きさを同時に測ることで、対象物の各部の温度の違いを把握できるのです。
第2の利点は計測の速さです。サーモグラフィは素早く赤外線を捉えて温度を算出できるので、温度計のように計測値が落ち着くのを待つ必要はありません。連続計測によって温度が刻々と変化する様子を観察することも可能です。
そして第3の利点が、対象物に触れずに計測できることです。高い所にあるものや危険物も安全な場所から測定できるほか、対象物の状態にも影響を与えないので、人体や食品、医薬品などの温度測定も安全かつ衛生的に行えます。
赤外線を感知する素子には、量子型と熱型の2タイプがあります。量子型は高速・高精度で測定できますが、素子の性能を保つために、使用時に十分な冷却が必要です。一方の熱型は、素子が赤外線を吸収して温度が上がると電気の流れ方が変わる性質を利用した仕組みです。安価に作れるほか、性能面でも、ここ数十年間の技術の進歩により十分実用的なレベルにまで引き上げられ、機器の小型化も進んでいます。
物の状態を識別する手段として様々な用途に活用される
サーモグラフィの利用が手軽になるにつれ、適用分野も広がっています。温度自体の計測に加えて、人間の目で判別できない物の状態を識別する手段として使われるケースが増えているのです。
工場での適用例に、生産ライン上の製造物をサーモグラフィで測定し、温度を基に良品・不良品を判定する仕組みがあります。例えば段ボール箱を接着して組み立てる工程では、温めて溶かした接着剤(ホットメルト)がよく使われます。「接着剤が正しい位置に適温で塗布されたか」は、段ボールの表面に伝わる温度を測定することで確認できます。
また工場内の機械や設備、配管などの保守作業でも、サーモグラフィを用いて正常時や周辺部との温度差を調べれば、故障や損傷、劣化した部品などの異常を早期発見できるようになります。
身近なところでもサーモグラフィが活躍しています。例えば住宅の断熱性能を高める際には、隙間風が入る場所や、壁や天井の温度を調べることで、合理的な修繕計画を立てられるようになります。壁の内部の雨漏りや結露(水濡れ)、コンクリート造マンションの壁面のヒビ割れといった不 具合を発見するツールとしての利用も広がっています。
防犯や防災など、安全な暮らしを支えるセンサとしての重要性も高まっています。お年寄りが住む家では突然の病への備えが欠かせません。サーモグラフィでお年寄りが「住居内で移動しているか」などを大まかに把握することで、監視カメラの可視画像よりもプライバシーに配慮した上で異変を察知できます。また、夜間に明かりがなくても動きが分かります。サーモグラフィは、温度を介して人間には分からない物事を識別する「もう一つの目」として、これからますます仕事や生活シーンで活用が進んでいくでしょう。
※1:あらゆる物体
正確には絶対零度(マイナス273.15℃)を超える温度を持つものを指す。氷点下の冷たい物体からも赤外線は放出されている。
※2:素子
機器の構成要素の一つとして、特定の機能を果たす部品や物体のこと。サーモグラフィで赤外線を感知する部品は「赤外線検出素子」、デジカメで光を捉える部品は「撮像素子」などと呼ばれる。
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この記事は2016年02月に掲載されたものです。