バリデーション
物事の妥当性や有効性を確認すること。特に医薬品の製造において、設備や工程が意図する品質の製品を製造できることを科学的に検証し、文書化して保証することをいう。
医薬品の製造管理・品質管理に関する手順やルールの妥当性を科学的に検証
病気やケガを治すために使う薬には、ドラッグストアなどで誰でも買える一般薬や、処方箋が必要な医療用医薬品があります。栄養剤のように医薬部外品という薬の一種に位置付けられているものもあります。
こうした医薬品は、常に意図した品質で製造することが求められます。もし錠剤の一粒一粒に含まれる薬効成分(効き目をもたらす化学物質)の量がバラバラだったら、安心して服用できないでしょう。命を左右するおそれもある医薬品の安全性は、製造者の取組みにかかっているといえます。
そこで世界各国では、医薬品の製造と品質の管理について、GMP※1と呼ぶ基準を定めています。これは安全な医薬品を提供できるように、①人間のミスの最小化、②汚染や品質低下の防止、③高い品質を保証する仕組みの整備、という目的の達成に必要な手順やルールを決め文書化し、実行することを求めるものです。
日本でも同様の基準が、いわゆるGMP省令※2として公布されています。製薬会社が医薬品を製造するには、この省令に沿って工場の管理体制を整備し、監督官庁の承認を受ける必要があります。
このGMPの中で、医薬品の安全性を保証するために規定されているのが「バリデーション」という活動です。これは「妥当性や有効性を確認すること」という意味で、原材料の入荷から製品の出荷まで、工程の一つひとつが安全な医薬品の製造にふさわしいかを検証することを指します。検証を通して安全性を示す客観的な証拠をそろえることで、「きちんとした方法で、きちんと作っている」ことを証明するのです。
バリデーションの活動は大きく二つあります。一つは製造の手順や使用する機器などがその医薬品の製造に適していることを「科学的に検証する」ことです。
例えば家庭料理は、同じ材料や調理器具を使って同じレシピで作っても、料理する人によって味が変わることもあります。しかし医薬品の製造ではそうした結果の違いは許されません。常に同じ品質になるよう、手順や設備・機材に潜むリスク(不確実要素)を洗い出して、再現性を高める必要があります。
リスクとはどんなものでしょうか。例えば複数の原料の混合工程なら、原料の秤量を誤る、混合作業が不十分というミスが考えられます。汚れた器具を使って不純物が混入する危険もあります。こうしたリスクを最小化するために、原料の秤量方法、混合方法や時間、器具の洗浄方法について、実際にテストして妥当性を検証します。
現場の作業環境も重要です。その一例が温度・湿度の管理です。医薬品の原料は粉状のものが多く、温度や湿度によって状態が変化する可能性があります。このリスクの増大を防ぐため、工場内での空気の流れ方、人間が作業する際の温度変化の度合いなどを考慮しながら、空調設備の管理方法を検証します。その結果を医薬品製造にふさわしいといえる根拠とするのです。
第三者が確認できるように検証結果の文書化も不可欠
バリデーションのもう一つの活動が文書化です。前述の検証に関するデータや評価を記録として残し、第三者が参照可能な証拠とするのです。
医薬品を製造する際は、原料や器具・装置、担当者と作業内容、工場の温度・湿度などの状況も逐一記録します。これにより製造体制に万全を期すとともに、問題が発生したらその原因をたどれるようにするのです。逆に言えば、どれだけ品質の高い医薬品でも製造過程の記録に一つでも欠落があれば出荷できません。
ちなみに最近の医薬品製造工場では、製造管理や品質管理、製造装置や分析装置の制御にコンピュータの適用が進んでいます。そうした設備には「コンピュータ化システムバリデーション(CSV:Computerized System Validation)」という検証が必要になります。日本では「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」に沿ってCSVを実施します。システムの設計時、据付時、運転時、性能評価時の段階ごとに計画書を作成し、想定どおりの結果を生むことを確認しながら構築を進めることで適格性を検証します。
手にした医薬品を安心して使えるのは、こうした取組みがあってこそです。バリデーションとは、そのたゆみなき実施を通して医薬品に添付される、目に見えない「品質保証書」なのです。
※ GMP
Good Manufacturing Practiceの略。もともと米国の食品医薬品局(FDA)が定めたもので、後に世界保健機関(WHO)が策定したことで世界各国に広まった。
※ GMP省令
正式名は「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」。
この記事は2015年02月に掲載されたものです。