ウォーターハンマ
水が流れる配管で弁の開閉、ポンプの駆動・停止などを瞬間的に行ったとき、水流の速度が急激に変化して高い圧力が生まれる現象。水撃作用ともいう。
流れる水の急激な速度変化で配管内に大きな衝撃が発生、弁や継ぎ目が壊れることも
洗濯機を使っていると、注水が止まった直後に「ドン」「カン」「ゴン」といった音が鳴り響くことがあります。同様にトイレの水を流した後、貯水タンクへの給水が終わった瞬間に音が鳴るのを聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
その音の正体は、「ウォーターハンマ」という現象によるものです。
蛇口などから水を出している間、配管内の水は一定の速度で動いています。その流れがバルブ(弁)で急激にせき止められると、水を動かしていた力(運動エネルギー)が逆方向に跳ね返り、配管の曲がり角やほかのバルブなどに当たって音が鳴るのです。
「音が鳴る」だけといって侮ることはできません。ウォーターハンマは、文字どおりハンマで叩きつけるほどの強い衝撃を生むことがあり、最悪の場合、バルブや継手※1を破壊するからです。衝撃が小さい場合でも、繰り返し衝撃がかかると配管が劣化して変形・破裂したり、配管を据え付けている支持材が壊れたりして大きな事故につながる恐れもあります。
ウォーターハンマは、中高層のビルやマンション、工場など、ポンプで水をくみ上げたり循環させたりしている配管でも起こります。停電や故障などでポンプが急停止すると、くみ上げたばかりの水の勢いが急激に弱まり、その前を流れる水との間に速度差が生じます。すると水流の中で圧力低下による蒸発(水柱分離という)が起き、次の瞬間、その隙間に吸い寄せられるように前方の水が逆流して後方の水と衝突し、大きな圧力が生じるのです。
一方でポンプを急稼働したときにも、くみ上げ直後の勢いのある水が、前方の静止した水に衝突することで同様の衝撃が生じます。こうした衝撃でポンプが故障すれば、設備全体の利用・操業に大きく影響するので十分な対策が必要です。
※1: 継手(つぎて)
管と管をつなげる部品。管継手(くだつぎて)ともいう。代表的なものに、穴の開いた円形の部品を管の末端に取り付け、面同士を合わせて円周をボルトで留めるフランジ継手がある。
ゆっくり開け閉めするバルブや逆止弁などを用いて事故を回避
ウォーターハンマの防止策は、水流の急激な変化を起こさないことに尽きます。すなわちバルブの開け閉めや、ポンプの稼働・停止を「ゆっくり行う」ことが大原則です。
最近のビルやマンションでは、設計段階から弁体(流れをせき止める面)がゆっくり開閉するタイプのバルブを使用したり、衝撃を吸収する器具(水撃防止装置)を使用するケースが増えています。配管やバルブも現在では、表示性能の数倍の圧力が瞬間的にかかっても耐えられるように設計・製造されています。
ポンプの急停止対策としては「フライホイール」という部品を取り付けて、水のくみ上げが徐々に止まるようにする方法が挙げられます。またくみ上げた水を流す配管には、逆流した水によるポンプの故障やウォーターハンマの発生を防ぐため、流水量に応じてバネの力でゆっくり閉じるタイプの逆止弁(チャッキバルブ)を取り付けることが一般的です。
ちなみに多くの高層ビルには、居室の空調用に冷温水を循環させる配管が備わっています。このような設備では、弁の開き具合を制御できる比例弁(比例電動弁)や、水のくみ上げ量を調節できるインバータ※2内蔵のポンプを用い、システム全体で水流速度をきめ細かく制御してウォーターハンマの発生を防いでいます。
家庭のキッチンや洗面台などの蛇口に、レバーを上げ下げして水量を調節する「シングルレバー水栓」が使われることも増えてきましたが、これもウォーターハンマの原因になりがちです。水を止めて「カン」という音がしたら、レバーをゆっくり動かすよう心がけ、騒音や水漏れなどのトラブルを未然に防ぎましょう。
※2: インバータ
直流電力から交流電力に変換する装置。電動式ポンプの場合、電圧と周波数の上げ下げによってモーターの回転数を制御できる。
この記事は2016年04月に掲載されたものです。