特集に寄せて:次の100年に向けた技術開発の方向性について
アズビル株式会社
執行役員 技術開発本部長
西本 淳哉
azbilグループは,今年創立110周年を迎えます。戦中,米ブラウン社に支払うロイヤリティを横浜正金銀行に預けていた逸話や,終戦直後,従業員の雇用を守るために電気おひ(保温ジャー)や電気あんかを作って事業を継続したという「誠心誠意」の精神は,「人を中心としたオートメーション」に受け継がれ,今日に至っています。
当社は空調制御やプラント制御で世界の競合と研鑚を重ね,燃焼制御,温度制御,圧力制御,流量制御等で実績を上げてまいりました。一例として当社の看板商品の1つであるMEMS(半導体製造プロセスを用いた微小電気機械システム)技術の開発史について紹介します。
当社は1980年代初頭から,当時産業応用の可能性が検討され始めたばかりのMEMS技術に着目し,マイクロフローセンサの開発に着手しました。同センサの開発には10年余を要しましたが,その後,MEMS技術は,湿度センサ,ピエゾ圧力センサ,サファイア圧力センサ,磁気センサなどに応用され,現在では,当社の製品の多くにMEMSチップが搭載されています。
もう1つの例として,空調技術を挙げたいと思います。当社はビル空調制御分野において国内外のお客様から多数ご採用をいただいていますが,この実績は常にお客様と共に,最先端の制御技術を追求し続けた結果であります。 IoTの先鞭ともいうべき総合ビル管理サービスは1984年にスタートさせています。これからも,揺らぎ制御や個人の感じ方まで考慮した空調制御など,技術を一層進化させてまいります。
中長期的視点から,将来を支える商品やサービスを生み出し,将来にわたって当社がお客様に価値を提供し続けていくために取るべき方針は2つ。それは,徹底的に「個」を磨くことと,徹底的に「ソリューション」を追求することであると考えています。
「個」を磨くとは,センサやコントローラなどの個々の製品レベルで性能向上を目指すことであり,例えば,紫外線検知による燃焼センサ,高度に作り込まれたアルゴリズムを搭載した調節計などは,競争力を持つ製品として,お客様に信頼いただいています。
「ソリューション」を追求するとは,お客様の視点で考え,お客様の事業そのものの問題解決に貢献することであり,エネルギーマネジメント,総合ビル管理サービス,リモートメンテナンスのようなサービスの提供がこれにあたります。
IoTは,この磨き抜かれた「個」と優れた「ソリューション」が業態の枠を超えてネットワークでつながることを意味しており,優れた「個」を持つか,優れた「ソリューション」を持たねば生き残れないと思っています。
この大競争時代の生き残り戦略として,開発のスピードが重要だと考えています。蒸気の品質をオンラインで計測したり,液体中のごく微量の細菌の有無を瞬時に判別する装置は当社独自のものであり,実用化されれば世界に類を見ない機能を有する製品となります。しかし,技術の進化は日進月歩であり,いち早く市場に出し,顧客のニーズに応え,さらなる進化を目指さなければなりません。開発,マーケティング,営業が一体となり,お客様との対話を徹底することで開発のスピードアップを図る必要があると思っています。
オープンイノベーションも重要です。基礎的な技術であればあるほど開発に長期間を要する時代となっており,開発に必要なリソースを全て自前で持ち合わせている企業はもはや存在しないと言っても過言ではありません。オープンイノベーションはwin-winでなければ成立しません。このためには,相手から頼りにされる独自技術を持つことが重要になってきます。
30年前にMEMSに賭けたような中長期的戦略と,日々の開発におけるスピード感のある果敢な取り組み,この両輪が必要であると考えています。 今回の特集では,この具体的な事例として「生産現場・執務空間ソリューションを加速する情報化技術」への取組みを紹介しています。
110年生かしていただいた社会に,次の100年も生かされる会社であり続けるために,守りではなく攻めの姿勢で,骨太の技術開発に取り組んでまいりたいと考えています。
この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2016年04月に掲載されたものです。