新型LPガスメーターによるシステムスマート化とIoTの実現
キーワード:IoT,スマートメーター,LP ガス,高分解能
ユーティリティメーターのスマート化に対する期待は世界的に高まっており、日本国内でもスマートメーターが普及期を迎えると予想されている。今回開発した新型LPガスメーターは、高い信頼性と長い実績を持つ膜式を採用しながら、メーター構造や磁気センサ配置の最適化により計測分解能を向上させるとともに、通信端末内蔵スペースを確保し、各種通信方式のモジュールを選択できる構造とした。Low Power Wide Area(LPWA)など次々と登場する通信方式に対応できるInternet of Things(IoT)時代に備えたスマートメーターである。
1.はじめに
1.1 エネルギー業界の動向
電力業界ではガス業界に先駆けて,スマートメーター化が進んでいる。電力メーターをスマートメーター化することで,細かな使用状況を確認できるため,電気事業者は多種多様なサービスの提供をすることが可能になった。今後,ガスメーターにおいてもスマートメーター化が加速することが予想され,今までのガス使用量計測と安全確保に加え,ガス消費者に対する細かな料金プランを提供する事業の変革が期待される。そこでアズビル金門では,通信端末をメーターの内部にビルトインできる新型LPガスメーター(以下,開発品)により,今後のガス事業の変革へ対応していく。
1.2 海外と国内における電気用スマートメーターの普及とその背景
例えば米国においては小規模な電力事業者が多く,電力設備への投資が十分に行えないため,老朽化した設備が多くなっており,2000年のカリフォルニアの大停電や, 2003年のニューヨークの大停電などの要因となった。そのため,スマートメーターを用いて需要家の使用状況を把握し,ピーク時の使用量を制限することで電力供給の平滑化を図った。また,将来増大すると予想される再生可能エネルギーの電力網への取込みを行うためにもスマートメーター化が進められている。
日本においては1997年に採択された「京都議定書」や2008年の洞爺湖サミットにて, 温室効果ガス削減が目標として掲げられた。電力事業者は,スマートメーターにより電力使用量をモニタリングし,ピーク時の供給量をコントロールすることで,電力使用量を平滑化し,新たな発電所の建設を抑制するなど,温室効果ガスの削減に寄与した。また,2011年に発生した東日本大震災の影響による原子力発電所の稼働停止を機に,一般需要家においては省エネルギー意識が高まった。その影響で再生可能エネルギーの電力網への取込みが進むと同時にスマートメーターの導入が加速している。
1.3 LPガス業界における,スマートメーターの普及と課題
LPガス業界では通信機能を有するマイコンメーターS(以下,現行品)や超音波式ガスメーターが普及しており,LPガスを使用するほとんどの家庭に設置されている。そのうちセンター設備に接続し,通信で検針を行っている自動検針需要家数は600万件以上に達している。自動検針を使用しているガス事業者は,メーターが保安機能により遮断した場合の緊急出動,料金不払い需要家に対する遮断制御, LPのガスボンベ残量管理によるボンベ交換の合理化などに活用しており,広義のスマートメーターとして利用されている。ところが,自動検針の確立が早かったこともあり,通信にアナログ電話回線を利用した方式が多く,通信速度も遅いものになっている。そのため日々進化する通信インフラに対し,どのように対応していくかが自動検針の課題となっていた。
1.4 通信機器の変遷
アズビル金門では,約30年前からLPガスメーター集中監視システムを提案し,通信にアナログ電話回線を利用した方式を採用し,その後下位側通信方式に特定小電力無線を追加している。
アナログ電話回線は現在でも集中監視システムの多くで採用されている通信方式ではあるが,近年の携帯電話の普及により固定電話が減少し,通信インフラが急激に変わりつつある現状と,アナログ回線によるノーリンギング通信方式が2025年にサービス終了との展望が発表されたことで,新たな通信インフラへの移行の必要性が問われている。
インターネットに接続でき「いつでも,どこでも,何でも,誰でも」つながる未来のためのユビキタスネットワークの構築は,国の政策でも進められており,国内外問わず経済成長を促し,その成長率予測(図 1(2)(3))から自動車業界や産業界へもインパクトをもたらすものとして期待されている。その実現を可能にする通信機器であるIoTデバイス数が年々増加傾向にあり(図2<.(2)(3)),近年その動向が注目されている。
図1 分野・産業別のIoTデバイス数および成長率
図2 世界のIoTデバイス数の推移および予測
前述のとおり,IoTと呼ばれるインターネットに接続可能な通信機器へのニーズの高まりは,膨大かつ様々な情報をビッグデータとして集積・分析し,活用することへのニーズの高まりを示すものである。その情報収集において,新たな通信方式として注目されているのが,Low Power Wide Area(LPWA)と総称される無線で広範囲に渡り通信でき,低消費電力動作可能な機器の通信方式である。
LPWAには,主に表1のような通信方式がある。LPWAが電力メーター,ガスメーター,水道メーターなどのライフラインを支えるエネルギー管理機器用の通信方式として採用されることで,将来的には顧客ニーズに合わせた様々な情報サービス提供ができると期待されている。
表1 LPWAによる主な通信方式
通信方式 | 推進団体 | 通信速度 | 伝送距離 |
---|---|---|---|
Wi-SUN™ | Wi-SUN Alliance | 800kbps | 1km程度 |
LoRa WAN™ | LoRa Alliance | 250kbps | 10km程度 |
SIGFOX™ | 仏SIGFOX | 100bps | 50km程度 | Wi-FiHalow™ | Wi-Fi Alliance | 150kbps | 1km程度 |
2.開発品の概要
今回,来たるIoT時代の通信方式に先立ち,ガスメーターの検針データ情報,ボンベの残量管理情報,保安情報の取得などが可能で,メーター自体の外観を損なわずスマート通信機器が内蔵できるLPガスメーターの開発を行った。
2.1 現行品との比較
開発品は現行品と同様,実績のある実量式の計量膜を用いた膜式ガスメーターとした。液晶カウンタ搭載コントローラを採用して,電子式メーターと機械式メーターの良い部分を兼ね備えたハイブリッド型ガスメーターをコンセプトに開発を進め,実現に至った。図3に開発品と現行品との外観比較,表2に仕様比較を示す。
図3 外観比較
表2 仕様比較表
開発品 | 現行品 | |
高さ[mm] | 232.5 | 236 |
幅[mm] | 149 | |
奥行き[mm] | 121 | 136 |
質量[kg] | 2.0 | 2.3 |
使用温度範囲[℃] | ー30~60 | |
計量体積[L/rev] | 0.5 | 0.7 |
流量検知方法 | 磁気センサ | リードスイッチ |
耐用年数[年] | 10 |
2.2 通信機器をガスメーターに内蔵
従来の通信機器はガスメーターとは別体であり,メーターボディの外側に取り付けられた構造となっている。ガスメーターのサイズに加えて通信機器を取り付ける設置スペースが新たに必要であった。
開発品は,端子台カバーの内側にあらかじめ通信機器の設置スペースを設けており,通信機器を内蔵できるため,新たな設置スペースを考慮する必要がなく,スマートな外観にすることができた(図4)。
図4 外観比較
製品・技術の紹介
3.1 計量部・外装の改良による小型化・高機能化
開発品は実量式の計量膜を用いた膜式ガスメーターを採用している。日本では1904年にアズビル金門が開発した乾燥式ガスメーターが起源となっており,現在でも最も普及した信頼性の高い計量方式である。
その設計思想を基に,開発品は現行品で採用されたロータリーバルブを踏襲し,さらに高分解能と小型化を実現するため,計量膜を現行品の0.7L/rev.から0.5L/rev.へと変更した。
また,これまでの機械式カウンタから液晶カウンタを採用することにより,指針値の視認性を向上させるとともに,部品点数の削減を実現した。 開発品は,通信機器を内蔵するスペースを確保しつつ,現行品単体との比較では,縦横幅はほぼ同等のサイズとしながら奥行きで15mmの小型化を実現した。現行品と通信機器を加えたスペースの比較をすると,開発品は幅で約30mmの省スペース化となった(図3,図4)。
3.2 メーター基板の開発
3.2.1 流量検知機能の改良による復帰時間の短縮
現行品では,保安機能などによりガスメーターを遮断させた場合,遮断した状態から再度ガスが使用可能となるまでの復帰時間が50秒となっており,超音波式ガスメーターの約20秒に比べ長い時間を必要としていた。そのため復帰時間を短縮して欲しいというガス事業者やガス消費者からの要望が多かった。遮断状態から復帰させるためには, 21L/h以上の流れが発生していないことを確認してから復帰させる必要があるため,流量検知の分解能により復帰時間が決まってしまう。
現行品の流量検知方法は,ロータリーバルブに同期した回転部に磁石を2個配置し,メーターの1回転(0.7L)ごとにリードスイッチが4回ON/OFFすることで流量を検知していた(図5)。そのため流量検知の分解能が0.175Lとなり, 21L/hの流量を検知するために部品のばらつきを考慮しない理想状態でも30秒必要であった。
図5 現行メーター回転追従分解能
開発品では,回転部に磁石4個を90度間隔で配置し,磁気センサー2個を22.5度で配置することで,メーター1回転(0.5L)を16分割し,流量検知の分解能を0.03125Lとした(図6)。これにより,21L/hの流量の検知に要する時間を,理想状態で約5.4秒に短縮させることができた。実使用における遮断状態から復帰するまでの時間は,部品のばらつきなどを考慮し,超音波式ガスメーターと同等の約20秒まで短縮することを実現した。
図6 開発メーター回転追従分解能
3.2.2 表示機能の改良による遮断事象の明確化
現行品は保安機能による遮断の理由をA,B,C文字の組合せにより表していたため,一見して遮断理由を認識することが困難であった(図7)。 そのため開発品では遮断理由の表示を今までのA,B, C文字の組合せに加え,文字による表示も追加した(図7)。そうすることで,ガス事業者だけではなくガス消費者も遮断理由を容易に認識することが可能となった。また,圧力値の表示もA,B,C文字の組合せと点滅回数による表示から,数値による表示になるため一見して圧力値を認識することが可能となった。
図7 現行品と開発品の表示内容比較
具体例として,ガスが過大に流れた時に発生する合計流量遮断時の液晶表示を図8に示す。開発品の表示は業界仕様で決められている「ガス止○○Ⓒ表示」の他に,「合計」の文字を表示することにより,一見して合計流量遮断が発生したことを判断することが可能となった。
図8 現行品と開発品の合計流量遮断表示比較
3.3 通信機器の開発
3.3.1 多彩な接続パターンを可能にした通信機器構成
今回開発した通信機器は,下記の3種類をラインアップした。
- 携帯パケット通信網に接続可能な「ゲートウェイ」
- 開発品の通信ポートに直接接続されたメーター側の通信端末である「子機」
- 特定小電力無線による各機器間の中継通信を行う「中継機」
これら機器により多彩な接続構成パターンが可能となり,集合住宅や点在する戸建住宅に設置されたガスメーターを広範囲にわたりカバーすることが可能となった(図9)。
図9 接続構成パターン例
3.3.2 通信機器の特長
各機器は以下の主要機能・特長を持つ。
- ゲートウェイは携帯パケット回線に接続し,Internet Protocol(IP)による通信が可能
- ゲートウェイと下位通信端末である中継機や子機とは免許不要な特定小電力無線通信方式を採用
- ゲートウェイを中心として,ツリー状に複数の下位通信端末が最大256台接続可能
- 子機は8台までの子機と通信可能,最大ホップ段数3段
- 各通信機器は共通で,メーター通信ポート搭載,ガス警報器などの警報接点入力ポート搭載
- メーター検針情報を定期的に一括収集可能
- 交換時期の目安となるボンベ残量管理情報や,ガス遮断事象等の保安情報の随時通知が可能
メーター検針情報は,子機が設定された定期時刻に開発品と通信を行い,ゲートウェイに蓄積することで,データセンターからの一括収集が可能となった。
ゲートウェイに接続可能な機器数は,1台あたり256台(中継機と子機の合計)であり,メーターとの通信ポートは2ポートあるため,最大で512台のLPガスメーターとの通信接続が構成可能である。また,ゲートウェイが子機と直接通信するパターンだけでなく,ゲートウェイと子機との間に,8台までの中継機を接続可能である。
各機器の相互通信の無線規格は,使用者が免許不要なテレメータ・テレコントロール用の規格の1つである周波数920MHz帯を利用した特定小電力無線規格を採用し,ガス事業者の無線免許取得を不要とする利便性も確保した。さらに,通信速度が従来の無線規格(400MHz帯)よりも格段に速くなることに伴い,ソフト処理を最適化することで低消費電力動作を実現し,子機に搭載されるリチウム金属電池2本でメーター寿命に併せた10年間のメンテナンスフリーを可能にした。
各機器の仕様を表3に示す。
表3 主な各通信機器の仕様
機種 | ゲートウェイ | 中継機 | 子機 |
通信回線 | 上位:携帯パケット回線 下位:特定小電力無線 | 特定小電力無線 | 特定小電力無線 |
5ビット通信ポート/ 接点入力ポート/ Uバス通信ポート兼用 | 2 | 2 | 2 |
8ビット通信ポート | 1 | 1 | 1 |
下位接続機器数 | 256(中8) | 255 | 8 |
駆動電源 | 外部電源または電池パック | 電池 |
3.3.3 無線通信性能の確認
子機は小型形状ながらも無線通信上の性能(見通し通信距離200m)を保つために基板配置,アンテナ位置,アンテナ指向性の工夫を実施した。点在する戸建てだけなく,電波到達に不利な集合住宅の金属製パイプシャフト内へ通信機器を設置したとしても,ゲートウェイと子機で通信可能であることが分かった(図10,表4)。その際の現場の環境条件は,以下の通りである。
図10 評価環境(集合住宅)
表4 通信評価結果
子機番号 | 電波強度 [単位:dBuV/m] | 安定目安 |
---|---|---|
1 | 39 | 20dBuV/m 以上 |
2 | 33 | |
3 | 36 | |
4 | 43 | |
5 | 27 | |
6 | 30 | |
平均> | 34.6 |
さらに厳しい通信環境に備え,通信の迂回を可能にする中継機を構成機器に加えた。仮に,集合住宅で通信不良が発生した場合,図11のように中継機による通信の経路変更を可能とした。
図11 中継機による通信経路変更
3.3.4 柔軟なシステム構築を可能にした通信機能拡張
現行品にも取付け可能な,防雨構造を持つ外付け通信機器も同時に開発した。これにより新旧のメーターが混在したシステム構築が可能となった。
通信機器のインターフェースは,LPガスメーターと通信できる2つの5ビット通信ポートだけでなく,電子式水道メーターや都市ガスメーターなどと通信可能な8ビット通信ポートも搭載した。5ビット通信ポートは設定により接点入力ポートやUバス通信ポートとして使用が可能である。各種メーターと通信できる複数インターフェースを備えているため,仮に設置後で現場顧客ニーズに変化があっても,追加したいエネルギー管理機器から配線を行うだけで対応でき,柔軟にシステムを再構築することも可能となった。
4.おわりに
ガスメーターのIoT化により,ガス事業者は詳細なガス使用量のデータを蓄積することができ,ガス消費者に対して様々な料金プランの提案が可能になる。また,電気,ガス,水道の使用状況を一括して監視することで,一人暮らしの高齢者の見守りサービスも現在より充実したものとなり,今後の超高齢化社会への対応も可能となる。
通信距離の延長,通信容量の拡大,スマートフォンの活用等といった機能拡張と同時に,今後も刻々と進化するであろう通信インフラおよびIoTに対応したガスメーター開発を継続的に行っていく。
<参考文献>
(1)日本ガスメーター工業会:スマートメーター動向調査報告書,2010,pp.14~16
(2)総務省:平成28年度情報通信白書(第2章,第1節),2016,p.8
(3)IHS Technology
<商標>
Wi-SUNはWi-SUN Allianceの商標です。
LoRaWANの名称はSemtech Corporationの商標です。
SIGFOXの名称は製品名および会社名で商標です。
Wi-Fi HaLowはWi-Fi Allianceの商標です。
Wi-FiはWi-Fi Allianceの商標です。
<著者所属>
湖東 裕治 アズビル金門株式会社 開発本部製品開発部
石倉 伸吾 アズビル金門株式会社 開発本部製品開発部
鈴木 智恭 アズビル金門株式会社 開発本部製品開発部
この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2017年04月に掲載されたものです。
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