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ビルディングオートメーションシステムのエンジニアリング作業効率化に貢献する新しいエンジニアリングツールの開発

キーワード:savic-net G5, UI, ビルディングオートメーションシステム, BAS, エンジニアリングツール

savic-net™ G5向けエンジニアリングツール(PC Engineering Tool for savic-net G5)は、新たに開発したビルディングオートメーションシステムsavic-net G5を迅速に立ち上げ、調整作業の省力化を目指したエンジニアリングツールである。従来と比較してユーザビリティや開発効率を向上させるため、基本となるユーザーインターフェース(UI)と共通機能をプラットフォームとして定義し、様々なエンジニアリング機能をアプリケーションとして実装した。

1.はじめに

当社は,図1に示すように1980年頃から現在までビルディングオートメーションシステム(以下,BAS)を開発・製造・販売してきた。初期のBASでは,製品に組み込まれたローダー機能を使ってエンジニアリング作業が完結していたが, 1996年以降,製品から分離する形のPC上で動作するソフトウェアとしてエンジニアリングツールを開発してきた。この後,エンジニアリングツールを製品の拡充や機能追加に合わせて開発したが個別のツールとしてリリースしてきた経緯があり,ツールの数が増えていった。このため,従来のエンジニアリング作業は複数のツールを使った複雑な操作や手順が必要になっており,エンジニアリング作業効率の低下を招いている。さらに,PCがオフィスや家庭に本格的に普及し始めてから20年以上が経過してユーザーのGUIに対する知識も向上しており,独自の画面レイアウトや操作制約がある従来のエンジニアリングツールでは満足を得られない状況が見受けられていた。

そのような状況の中で,新システムであるsavic-net G5の開発が開始され,savic-net G5向けエンジニアリングツールの開発を進めている。

本稿では,savic-net G5向けエンジニアリングツール開発の背景や目的,開発したプラットフォームとアプリケーション実装例,今後の期待効果を紹介する。

図1 歴代システムとエンジニアリングツール

2.savic-net G5 向けエンジニアリングツールの概要

savic-net G5向けエンジニアリングツールは,下記の機能から構成される。

(1)メイン画面/共通機能
savic-net G5システム全体の共通設定機能

(2)BH-1エンジニアリング機能
中央監視装置(以下,BH-1)に関連したエンジニアリング機能,監視用グラフィック作成機能

(3)WJ-11エンジニアリング機能
BACnetコントローラ(以下,WJ-11)に関連したエンジニアリング機能,制御プログラム設定機能

savic-net G5システム構成とsavic-net G5向けエンジニアリングツールの機能範囲を,図2に示す。

図2 システム構成と機能範囲

3.開発のコンセプト・目的

savic-net G5向けエンジニアリングツールは,従来のsavic-netTM FX向けエンジニアリングツールに代わり, savic-net G5システムを立ち上げ,調整するための機能を新たに設計したエンジニアリングツールである。開発にあたり,従来から課題とされていたエンジニアリング作業効率の向上が求められている。

savic-net G5向けエンジニアリングツールの代表的なコンセプト・目的を,下記のように定義した。

3.1 UIの統一と操作性の向上,プラットフォームの構築

従来は実現できていなかった「UIの統一と操作性の向上」を実現するため,savic-net G5向けエンジニアリングツールでは全画面で共通となるUIを基本画面仕様として定義し,ツール全体のレイアウトと操作性を統一した。さらに,「入力効率を向上させる」ための共通機能をプラットフォームとして開発し,ツール全体のエンジニアリング作業効率と開発効率の向上を実現する。

基本画面については,4章で説明する。

3.2 オールインワンツール

従来のsavic-net FX向けエンジニアリングツールでは,作業対象の製品や作業目的によって複数のツールを使い分け,ツール間のデータ連携はユーザーがデータファイルを管理する必要があったことに加えて,各ツールのバージョンを合わせる必要があった。savic-net G5向けエンジニアリングツールでは,エンジニアリング作業に必要なすべての機能を1つのパッケージに統合(オールインワン)することにより,操作性の統一とデータファイル管理の一元化,バージョン管理からの解放を実現し,エンジニアリング作業効率の向上を実現する(図3)。

図3 オールインワンツール

3.3 オンラインエンジニアリング

従来のシステムでは,エンジニアリングデータを反映するために必ず機器の動作を停止してリスタートを行わなければならなかったが,savic-net G5システムではいくつかの設定を除いてリスタートを行わずに反映することが可能になった。savic-net G5向けエンジニアリングツールもオンラインエンジニアリングに対応することで,エンジニアリング作業時間の短縮とシステムの無監視/無制御状態を最小化することを実現している。

4.エンジニアリングツールのプラットフォーム

前述の開発のコンセプト・目的を実現するため,次のソフトウェア構成を定義した(図4,表1)。

  • savic-net G5システムを立ち上げて調整するための機能を実装する「アプリケーション機能」
  • アプリケーション機能を実現するために,共通で繰り返し使われるUI部品や機能部品をまとめたフレームワークとサービスから構成される「プラットフォーム」
  • OSや実行環境,共通コントロールから構成される「システム」

図4 ソフトウェア構成図

表1 ソフトウェア構成説明

分類内容
アプリケーション機能メイン画面,BH-1エンジニアリング機能,
WJ-11エンジニアリング機能などから構成される。
プラットフォーム
基本画面のほかに,
右記の機能から構成される。
フレームワークデータグリッド,プロパティグリッドなど,
共通で繰り返し使われるUI部品/機能部品から
構成される。
サービスデータアクセス,通信サービスなどから構成される。
システムOS/.NET Framework/共通コントロールなどから構成される。

本章では,プラットフォームの基本画面について説明する。

4.1 基本画面の構成

ユーザーが操作に迷わないように,ウィンドウのレイアウトを基本画面として定義した。図5のように基本画面は,メインウィンドウ,アプリケーションウィンドウ,出力ウィンドウから構成される。複数の画面を同時に表示し,切替が容易なマルチドキュメントインターフェース(以下,MDI)を採用した。

図5 基本画面の構成要素

4.1.1 メインウィンドウ

savic-net G5向けエンジニアリングツールを起動すると表示される画面をメインウィンドウと呼び,MDIの親画面となる。 savic-net G5向けエンジニアリングツールの主制御(ツールの起動/終了など),子画面(アプリケーションウィンドウ)の表示制御,メニューペインから目的のアプリケーション機能を呼び出すことが可能である。

4.1.2 アプリケーションウィンドウ

コンテンツペイン,操作ペイン,プロパティペインから構成される。コンテンツペインには,多くのユーザーが使い慣れているMicrosoft Excelに似た表形式(データグリッド)でエンジニアリング項目およびデータを一覧表示する。コンテンツペインはPCの画面サイズに合わせて伸縮して表示することが可能だが,エンジニアリング項目が多い画面では横スクロール操作をする必要があり一覧性に欠けるため,プロパティペインにすべての設定項目を縦方向に表示できるようにした。

4.1.3 出力ウィンドウ

メインウィンドウ下部に表示するウィンドウで,任意の処理結果を表示することが可能である。例えば,エラーチェック結果などを表示することが可能である。

4.2 基本画面が提供する便利機能

エンジニアリングツールは,オフィスでの初期データ作成や現場での製品の立ち上げ,立ち上げ後の製品の設定変更など,様々なシーンで使用される。シーンごとの多様なニーズに対応するべく,下記に示すような便利機能を全画面共通の機能として提供することでユーザーが自分の目的に合わせた作業環境を柔軟に構築できるようにした。

4.2.1 データ編集操作と変更箇所の特定機能

基本的なデータ編集操作(コピー/ペースト,アンドゥ/リドゥ)とデータ出力処理(xlsx形式のファイル出力)を可能にした。 データ変更箇所のセル背景色を変更する処理を提供することで,ユーザーは変更箇所の特定が容易になる(図6)。

図6 変更箇所のセル背景色変更

4.2.2 ユーザーの作業目的や好みに応じた表示設定

savic-net G5システムを構成するBH-1やWJ-11の設定項目のうち,シーンによって注目する設定項目は異なる。例えば,デバイス間の通信設定を確認したい場合には,警報に関する設定項目は見る必要がない。画面サイズの制約により,コンテンツペインに同時表示可能な設定項目数には限りがある。このような場合に,画面に表示する項目を設定によって変更可能とした(図7)。

さらに,スクロールしないように列固定の設定をしたり,設定項目の列位置の変更を可能にした(図8)。

図7 表示項目の設定

図8 列の移動

4.2.3 画面表示レイアウトの変更

MDIにより,ユーザーが作業目的に応じて複数の画面を同時に表示・編集することを可能にした(図9)。

図9 MDI表示

複数の表示モードを,ユーザーが自由に選ぶことが可能である(。1)重ねて表示(2)横に並べて表示(3)縦に並べて表示(4)タブ表示(5)親画面から切り離す/引き込む

タブにした場合の表示例を,図10に示す。

図10 タブ表示

複数デバイスの設定を比較する場合や,関連のある複数機能間の設定を同時に参照する場合などを想定し,子画面(アプリケーションウィンドウ)を並べて表示することを可能とした(図11)。

図11 並べて表示

デュアルモニタの環境で使用する場合を想定し,任意の子画面を切り離すことを可能とした(図12)。

図12 子画面の切り離し

5.アプリケーション機能

savic-net G5向けエンジニアリングツールが提供する代表的なアプリケーション機能を表2に示す。

表2 代表的なアプリケーション機能

メイン画面(メインウィンドウ)メニュー管理
ユーザー管理(ライセンス管理)
ログ管理
単位設定
BH-1エンジニアリング機能デバイス設定
ポイント設定
エンジニアリングデータ書込み
グラフィックジェネレータ
WJ-11エンジニアリング機能デバイス設定
I/Oオブジェクト設定
セカンダリデバイス管理
デバイス間通信
DDCプログラムエディタ

本章では,従来は別のツールだったDDC(Direct Digital Controller)プログラムエディタをsavic-net G5向けエンジニアリングツールのアプリケーションとして開発するにあたり,特長と従来から改善・工夫した点について説明する。

5.1 DDCプログラムエディタ

5.1.1 特長と動作モード

コントローラの制御プログラムであるDDCプログラムは,制御演算を行うDDCプログラムブロックを組み合わせて制御ロジックを構成し制御対象の各種オブジェクトを入出力に設定することにより作成する。DDCプログラムエディタでは制御プログラムを構成する制御パーツをロジック図上に配置,結線させ描画しながら制御プログラムを作成する。前述の基本画面UIではなく視認性,可読性の高いロジック図を独自のUIとすることによって従来の設定ファイルでの接続関係を設定するUIより制御ロジック作成の品質が向上する。

また,通常の制御設定を行うエンジニアリングモードに加え,実機の制御動作の検証を行うデバッグモード,実機へのパラメータ変更,動作確認を行うコネクトモードを備え,同一のロジック図上で任意のタイミングでモード変更を可能にして制御プログラムの設計および動作検証が効率よくできるよう操作性を高めている。

デバッグモードの表示例を,図13に示す。

図13 デバッグモード

5.1.2 マスタ/インスタンスのデータ構造

ビル空調においては,オフィスフロアの空調設備を階によらず同一構成・計装とすることで設備設計を効率化している。こうした背景からビル内には同一計装のためのDDCプログラムが多数存在する。同一のDDCプログラムロジックを効率的に作るためには,ロジックの描画情報を一元化しておくことが有効である。一元化することでロジック作成も一度きりで良い上に,ロジック変更時にも描画情報は1つだけなので,それを変更しさえすれば参照先の多数のDDCプログラムロジックが同時に修正されることになる。ただしDDCプログラムを構成するDDCプログラムブロックのパラメータはフロアごとに調整する必要があるため,パラメータの値は別途保持する必要がある。

今回DDCプログラムロジック部分のデータ構造として,図14に示すようなマスタ/インスタンスのデータ構造をとり,共通の設定に関してはマスタ側に,マスタと差のある部分をインスタンス側として持つことにより作業の効率化およびデータ量削減による処理パフォーマンス向上を実現している。

図14 マスタ/インスタンスのデータ構造

6.プラットフォームの期待効果

エンジニアリングツールプラットフォームの期待効果を,開発効率とユーザビリティの観点から説明する。

6.1 開発効率

基本画面に準拠した画面を開発する場合,図15のように基本画面を継承して開発すればよい。画面定義ファイルに設定項目を記入して,数行の処理を記述するだけで作成可能である。

図15 基本画面クラスとその継承

データ編集操作(コピー/ペースト,アンドゥ/リドゥ)とデータ出力処理(xlsx形式のファイル出力)もプラットフォームが提供しており,基本的な画面は少ない工数で開発が可能である。

このようにエンジニアリングツールに最適なプラットフォームを定義したことによって,将来の製品拡充や機能追加に伴うsavic-net G5向けエンジニアリングツールの拡張を効率よく実施することが可能となった。

6.2 ユーザビリティ

機能ごとに画面仕様や操作性が異なると,ユーザーはそれぞれ個別に学習する必要がある。savic-net G5向けエンジニアリングツールではExcelでの操作感に近づけたUIに統一したことで,ユーザーは直感的に操作方法が理解できるものになった。savic-net G5向けエンジニアリングツールをリリースする際に初期JOB担当者やトレーニング参加者へのヒアリングを行ったところ,従来と比較してデータ入力作業の効率が向上したとの評価を得ている。

7.おわりに

savic-net G5向けエンジニアリングツールの全体像と,エンジニアリングツールプラットフォームを紹介した。今後は,製品の拡充に追従しつつ,表形式以外の画面仕様を基本画面に取り込んで多様なユーザー要求に対応可能とすることと,プラットフォームの機能強化を行い,エンジニアリング効率をさらに改善する各種支援機能の追加を計画している。

<商標>

savic,savic-net,savic-net FX,piatorimはアズビル株式会社の商標です。
Ethernetは富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の日本または他の国における商標です。
Microsoft Excelは米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
BACnetはASHRAEの商標です。

<著者所属>
小柳 貴義 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部
勝見 智行 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部
木原 知枝 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部
沖村 俊郎 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部
西 賢 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部
本多 香織 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部
清田 英男 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発1部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2017年04月に掲載されたものです。