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ディマンドリスポンスシステムの開発とバーチャルパワープラント構築実証事業への適用

キーワード:ディマンドリスポンス,ネガワット,アグリゲーター,バーチャルパワープラント,OpenADR

東日本大震災後の電力需給逼迫などをきっかけに、ディマンドリスポンスという、電力の供給に合わせて需要を調整する手法が注目されはじめた。経済産業省もディマンドリスポンス関連の実証事業を開始し、それに応えてアズビルもディマンドリスポンスのためのシステムを開発した。本稿ではアズビルのディマンドリスポンスシステムである、AutoDR™システムと、2016年度から実施されている「バーチャルパワープラント構築実証事業」へのアズビルの取組みを紹介する。

1.はじめに

2011年の東日本大震災以降,原子力発電所の停止などで電力の供給能力が低下した。当時,国内でいくつかのスマートシティプロジェクトが進んでおり,そこには「ディマンドリスポンス」と呼ばれる,電力の供給に合わせて需要を制御する実証も含まれていた。震災以前のディマンドリスポンスは省CO2が主な目的だった(1)。しかし,電力会社の電力供給能力が低下したため,電力の需給調整の必要性が高まり,ディマンドリスポンスが以前よりも注目されるようになった。

このような状況に対応して,経済産業省は2012年度から「エネルギー管理システム導入促進事業費補助金(BEMS)」の事業を開始した。アズビルはこの事業でアグリゲーター事業者として採択され,複数の建物に設置されているビル管理システムを遠隔から集中管理して,使用電力量の可視化ひっぱくや,電力需給の逼迫の度合いに応じたディマンドリスポンスを実現した。

その後,米国のOpenADR Alliance(URL: http://www. openadr.org)が標準として規定している,ディマンドリスポンスのシステム関連系プロトコルであるOpenADRを,日本でも利用することになった(2)。経済産業省のディマンドリスポンス関連の実証事業も,OpenADRで通信できることが事実上の参加条件になった。

アズビルはOpenADRを使ったディマンドリスポンスシステムである,AutoDRシステムを開発して,関連する実証事業に2015年から参加している。

2.ディマンドリスポンス関連用語の説明

本稿の内容を理解しやすいように,本稿で使用する用語を説明する。

(1)ディマンドリスポンス
ディマンドリスポンスは,電力供給側の要請に需要(ディマンド)側が応えて(リスポンス),使用電力量を削減して電力需給を調整することを指す。従来は,需要家(本稿では「建物」と同じ意味で使っている)が使う電力量に合わせて供給側が発電をしていた。ディマンドリスポンスはこれとは逆の発想である。本稿では以降,ディマンドリスポンスをDR(Demand Response)と略記する。

(2)ネガワット
削減された電力を指す。ネガワットにより,需要家はエネルギーコストを削減できる。また,ネガワット取引ではネガワット量などに応じた収益を得られる。電力供給者側は,ネガワット取引を利用すれば,発電設備の増強などの投資を抑制できる。

(3)アグリゲーター
アグリゲーターとは,多くの需要家を集め,各需要家に使用電力量の削減を依頼して,ネガワットを電力供給側に提供したり,ネガワットを売買する事業者を指す。

(4)バーチャルパワープラント
再生可能エネルギー発電設備や蓄電池などのエネルギー設備,DRによるネガワットなどを統合して,仮想的な発電所とみなすことを指す。本稿では以降,VPP(Virtual Power Plant)と略記する。

(5)OpenADR
DRのために定義された通信プロトコル標準である。米国のOpenADR Allianceが策定および管理している。発電事業者などの電力供給者側のシステムであるVTN(Virtual Top Node)と,アグリゲーター側のシステムであるVEN(Virtual End Node)の間の通信を規定している。VTNとVENの間の通信には,VTNからのDRの要請通知(以降,DRイベントと呼ぶ)や,測定値などの送受信などがある。OpenADR仕様の最新版はOpenADR2.0bであり,日本ではこの版が標準的に利用されている。

3.AutoDR システム

AutoDRシステムは,アズビルが開発したDRシステムである。アズビルは,このAutoDRシステムを使って,アグリゲーター事業に取り組んでいる。この章では,AutoDRシステムの概略を説明する。

3.1 システム構成

システム構成を図1に示す。AutoDRシステムは,アズビルのアグリゲーションセンター(以降,センターと略記する)に設置している。AutoDRシステムは専用ネットワークを使って,需要家側に設置されているビル管理システムのLANと接続している。

AutoDRシステムはこの専用ネットワークを経由して,ビル管理システム側に,DRを実現するための制御などを遠隔から実行する。

図1 AutoDRシステムのシステム構成

AutoDRシステムは,以下の6つのサブシステムで構成している。

  • VENサブシステム
  • 要請通知イベント管理サブシステム
  • データ収集サブシステム
  • ベースラインWebサービス
  • 遠隔制御サブシステム
  • 監視用Webシステム

この節では,これらのサブシステムの概要を説明する。

3.1.1 VEN(Virtual End Node)サブシステム

OpenADRで定義されているVENの機能を提供するサブシステムである。発電事業者などが運用するVTNと連携してDRを実現する。AutoDRシステムのV EN機能はOpenADR2.0b準拠の認証を取得しており(3),OpenADRに対応しているVTNに接続可能である。

3.1.2 要請通知イベント管理サブシステム

本サブシステムは,VENサブシステムがDRイベントを受信した場合に,関係者へDRが要請されたことを通知する。

通知する方法には,下記の3つがある。

(1)要請通知メール(需要家向け)
AutoDRシステムからDRを要請するすべての需要家の関係者に,要請通知メールを送信する。自動で需要の抑制制御をしない需要家の関係者は,このメールを受信すると,設備を停止させるなど,需要抑制のための操作を手動で実行する。

(2)要請通知警報(需要家向け)
需要抑制の要請があったことを,現場のビル管理システムの警報を発生させることで需要家に通知する。通知を受ける対象者はビル監視業務の担当者を想定している。

(3)要請通知イベント管理画面(アグリゲーター向け)
AutoDRシステムの運用者が,DRイベントをリアルタイムで監視する機能である(3.2.3項を参照)。DRイベントをリアルタイムで表示し,ブザー音を鳴らすことができる。

3.1.3 データ収集サブシステム

使用電力量の実績などを記録するために,計測値を収集するサブシステムである。これは以下の2つの機能で構成している。

(1)DRゲートウェイ
需要家の建物に設置するゲートウェイである。ビル管理システムから1分周期で使用電力量の計測値を取得し,センター側のMQTT (Message Queue Telemetry Transport)ブローカへリアルタイムで送信する。

(2)時系列データ蓄積
MQTTブローカ経由で,DRゲートウェイから受信した計測値をデータベースに保存する機能である。

3.1.4 ベースラインWebサービス

3.1.4 ベースラインWebサービス

需要抑制制御の結果,どれだけ電力を削減できたかを計算する必要がある。この場合,需要抑制制御をしなかった場合の使用電力量の予測値が必要である。これをベースラインと呼ぶ。

ベースラインにはいくつかの計算方法が決められている(4)が,本システムでは,標準ベースラインであるHigh 4 of 5 (当日調整あり)ならびに事前計測の2種類を,5分または30分周期のデータを使ってリアルタイムで算出している。ベースラインの値はWebサービスで提供しており,ほかのサブシステムから容易に利用できる。

3.1.5 遠隔制御サブシステム

需要家の設備を,現場のビル管理システムを経由して,遠隔から制御する機能である。制御には次の2種類がある。

(1)発停制御機能(設備のOFF/ON制御)
空調機や照明などの設備を遠隔から自動で,停止または運転する機能である。DRイベントで要求された時刻に設備を停止し,DRイベントで要求された継続時間が経過した後に運転を再開させる。

(2)設定値制御機能(室温設定等アナログ値設定制御)
室温,開度,周波数などのアナログ値を遠隔から自動で,指定幅分下げる,または上げる機能である。発停制御と同様にDRイベントで指定された時刻に設定値を変更し, DRイベントで要求された継続時間が経過した後に設定値を元に戻す。

3.1.6 監視用Webシステム

AutoDRシステムのユーザーインタフェースを提供するサブシステムである。WebSocketやMQTTなどの技術を利用することで,ブラウザでのリアルタイムでのイベント監視を実現している。本サブシステムの利用者は,AutoDRシステムの運用者のみを対象にしている。詳細は3.2節で説明する。

3.2 ユーザーインタフェース

AutoDRシステムのユーザーインタフェースは,以下の4つの機能で構成している。

3.2.1 制御設定機能

電力会社ならびに需要家の情報(提供するサービス等の設定,メール送信アドレス,受電ポイント,設備制御のポイントなどの情報)を設定する機能を提供する。画面の例を図2~図4に示す。

図4の制御設定画面では,緊急時に設備の制御を止めることもできる。

図2 電力会社情報設定画面

図3 需要家情報設定画面

図4 制御設定画面

3.2.2 ディスパッチ設定機能

ここでの「ディスパッチ」とは,DR時に需要抑制する需要家を選択することである。図5に示すディスパッチ設定画面で,DRイベントで指定された条件に応じて,どの需要家にディスパッチするかを設定する。本システムでは,次の2種類のディスパッチ方法が選択できる。

図5 ディスパッチ設定画面

(1)手動ディスパッチ
あらかじめ決めた需要家すべてを制御対象とするディスパッチである。

(2)自動ディスパッチ
自動ディスパッチでは,DRの時間帯やDRで要請された削減量などの条件に応じて,システムが自動でディスパッチする建物を選択する。

AutoDRシステムは,リレーディスパッチに対応している。リレーディスパッチとは,要請されたDR時間帯を複数の時間帯に区切り,複数の需要家で分担して需要抑制制御をするDR手法である。リレーディスパッチは,手動ディスパッチと自動ディスパッチの両方で利用できる。リレーディスパッチの設定画面を図6に示す。

図6 リレーディスパッチ設定画面

3.2.3 イベント監視画面機能

図7に示すイベント監視画面は,DRイベントや,需要家設備の警報,制御の失敗,データの欠測など,DRを実行するために必要な各種イベントの情報を,リアルタイムに監視する画面である。

図7 イベント監視画面

イベント監視画面は,VENや遠隔制御などのサブシステムからのイベントをMQTTブローカから取得することで,リアルタイム監視を実現している。WebブラウザからMQTTブローカには,WebSocketを使って接続している。

図8にVTNからのDRイベントをイベント監視画面に表示するまでのデータの流れを示す。

図8 イベント監視の流れ

3.2.4 状態監視画面機能

状態監視画面は以下の2つの画面で構成している。

(1)ポイント監視画面
図9に示すポイント監視画面は,制御対象ポイントの設定値の,直近4時間の変化を表示する画面である。この画面は,制御対象のポイントの設定値が別の制御プログラムなどが変更していないかを監視するために使う。

図9 ポイント監視画面

(2)削減量監視画面
図10は,DR要請により需要抑制制御を実行している間の,5分ごとの削減量を表示する削減量監視画面である。目標値と実績値(削減量)を表示することで,目標未達の兆候を早期に発見することができる。

図10 削減量監視画面

3.3 ディマンドリスポンス制御の流れ

3.3.1 VTNからDRイベントを受信する

AutoDRシステムは,OpenADRプロトコルでDRイベントを受信する。このDR要請を受け入れる場合は,VTNへ“OptIn”を返す。要請を拒否する場合はVTNへ “OptOut”を返す。

3.3.2 DRイベントの内容から制御をスケジューリングする

受信したDRイベントの内容(制御開始時間,制御継続時間,削減量)を確認し,あらかじめディスパッチ設定された需要家の情報を加味しながら,制御対象とする需要家とその制御時間帯を計算する。計算された結果に基づき具体的な制御の時間帯をスケジューリングする。

3.3.3 制御対象の需要家に事前の通知を送る

制御対象の需要家を決めると,その需要家に登録されているメールアドレスへ制御開始の予告メールを送信する。遠隔から設備を制御しない需要家の場合は,このメールに従って,需要家側の設備管理者が手動で設備を停止するなどの操作を実行する。

3.3.4 制御開始~制御終了

3.3.2で決めたスケジュールに従って需要家の設備を遠隔から制御する。制御中は,AutoDRシステムの監視系画面で,制御の状況などを確認できる。また,VTNから要求されれば,OpenADRのレポートサービスを使って,計測値などを送信できる。

3.3.5 制御終了後

制御終了後,VTNからの要求に応じて,VTNへレポートを送信する。例えば,DR時間帯の1分周期の使用電力や,その間のベースラインの値を送信できる。

4.2016年度 VPP実証事業の紹介

2016年度,アズビルは経済産業省の「バーチャルパワープラント構築実証事業」の「B.高度制御型ディマンドリスポンス実証事業」に,アグリゲーター事業者として参加した。2016年度の実証事業の主な特徴は次のとおりである。

(1)DRイベントで削減容量が指定される
前年の実証事業では,DRで削減する容量は,需要家ごとにあらかじめ取り交わした契約容量だった。しかし, 2016年度の実証事業では,DRイベントごとに異なる削減容量が指定されるようになった。

(2)DRの成功基準が厳格になった
前年の実証事業では,需要家ごとにあらかじめ取り交わした契約容量以上を削減できていれば成功と判定されていた。2016年度はDRイベントで指定された削減容量の±10%以内に収まることが成功条件とされた。また,需要家ごとに成功か失敗かを判定するのではなく,アグリゲーターとして成功か失敗かを判定するようになった。

上記の特徴に,AutoDRシステムとしてどう対応したかを紹介する。

(1)ではDRイベントごとに削減容量が指定される。そのため,図11のように,ディスパッチ設定画面でディスパッチ対象の需要家建物のグループを複数登録できるようにした。どのグループを使ってディスパッチするかは,DRの時間帯や要求された削減容量から,削減可能量が近いものを自動で選択するようにした。

図11 ディスパッチ設定の例

(2)では要求された削減容量の±10%の精度が要求される。しかし,削減量の変動要素が多い需要家建物や,発電機などの突発的な故障などにより,計画どおりに使用電力を削減できないこともある。そのため,図10の削減量監視画面や図7のイベント監視画面で,AutoDRシステムの運用者が計画とのかい離や設備の異常を早い段階で検知できるようにした。

計画とのかい離があった場合は,AutoDRシステムの運用者は別途,遠隔設備管理システムを使って,追加で機器の動作を停止させるなどの処置ができるようになっている。

その他,アズビルの実証結果の詳細は参考文献(5)に記載している。

5.おわりに

アズビルは2017年度もVPP実証事業に参加している。 2017年度の実証事業では,下記の2つの機能を追加している。

  • OpenADRのレポートサービスを使った各種計測値のVTNへの送信
  • リレーディスパッチ(3.2.2節を参照)

今後,削減容量を目標値に一致させる精度を上げるためのディスパッチアルゴリズムの改良や,AutoDRシステムの運用者の利便性を向上させるなど,多くの改良に取り組んでいく予定である。

<参考文献>

(1) 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,NEDO再生可能エネルギー技術白書,2010, pp.531-538

(2) JSCAスマートハウス・ビル標準・事業促進検討会,デマンドレスポンス・インタフェース仕様書,   http://www.meti.go.jp/

(3) https://products.penadr.org/product/azbil-corporation-azbil-dr-system/

(4) 経済産業省 資源エネルギー庁,ネガワット取引に関するガイドライン,http://www.meti.go.jp/

(5) アズビル株式会社,バーチャルパワープラント構築実証事業成果報告書, https://www.iae.or.jp/download/a-1- 3vpp/?wpdm dl=8989,2017

<商標>
AutoDRはアズビル株式会社の商標です。

<著者所属>
中村 瑞 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー 開発本部開発3部
水谷 佳奈 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー マーケット本部 環境マーケティング部 

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2018年04月に掲載されたものです。