建物ライフサイクルを支えるsavic-net™ G5システムのリモートコントローラ
キーワード:Ishiisavic-net G5, ジェネラルコントローラ, 小型リモートI/Oモジュール
2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に進む都心の大規模再開発とともに、既設建物の改修需要も増加しており、2020年以降も継続することが見込まれている。これらの国内の新築建物の建設および既設建物の改修現場の計装工事における労働力不足などの課題解決を目的として、savic-net™ G5システムのラインナップにジェネラルコントローラおよび小型リモートI/Oモジュールを追加したので、それらの技術的特長を述べる。
1.はじめに
当社では,グローバル市場でのさらなる市場拡大を目指し,オープンネットワーク対応を強化した新ビルディングオートメーションシステムであるsavic-net G5をリリースし, 2016年に海外販売を開始した。
一方国内市場では,東京オリンピック・パラリンピックをはじめとした大規模再開発や,既設建物の改修案件の増加が見込まれている。これらの建物では,地球温暖化防止やエネルギー安定供給の観点で,持続的かつ高度なエネルギー管理とともに,知的生産性に配慮した快適空間の提供が求められている。しかしながら,労働人口の減少や働き方改革の推進に伴い,計装工事においては,現場の労働力不足が課題となっている。
本稿では,省エネルギーや快適空間の提供に貢献するとともに,労働力における課題解決として,現場の作業工数低減を目的の1つとして開発したsavic-net G5システム(図1)の新ラインナップであるジェネラルコントローラ(以下,WJ-1111)および小型リモートI/Oモジュール(以下,RJ-12)について述べる。
図1 savic-net G5 システム構成
2.WJ-1111 および RJ-12 の概要
2.1 WJ-1111
WJ-1111(図2の左手前)は, savic-net G5システムの中で空調機の制御やVAV(Variable Air Volume:変風量)装置などの設備機器の監視,制御を行う汎用コントローラである。入出力信号は,当社の従来製品との互換性を維持した連結型の直結I/Oモジュール(以下,RY51)を19種類用意しており,任意の組合せで最大16台まで接続できる。またBACnet,ModbusTMなどの国際標準の通信プロトコルに対応し,オープンネットワーク化したことで,自社・他社製品を問わず様々なメーカーの各種設備機器の接続が可能である。
2.2 RJ-12
RJ-12(図2の右手前)は,BACnet通信に対応したリモートI/Oモジュールである。制御盤内などの空きスペースに設置可能な小型サイズであり,建物内の各種設備機器の近くに分散設置することで,省配線が可能となる。入出力信号種別により,5種類のラインナップを用意している。
図2 WJ-1111,RJ-12の外観
以降では,現場での作業工数低減を実現するための本製品の技術的特長として,施工工数の低減手法,エンジニアリングの簡易化に加え,既設建物の改修を考慮した従来製品との互換性について述べる。
3.施工工数の低減手法
3.1 通信接続による配線工数の低減
空調機制御は,コントローラと各種設備機器と様々な信号を取り合うことで監視,制御を行う。コントローラと各機器との接続は,信号線を個別に接続する,いわゆるゾロ引き配線で行うことが多い。この場合,コントローラの入出力信号は多数あるため,ケーブルなどの工事部材費に加えて,配線施工の工数も増加する。
工事部材費と配線施工の工数を低減するためには,コントローラと各機器との間のゾロ引き配線を減らす必要がある。このため,I/Oモジュールを各機器の近くに分散配置できるリモートI/OモジュールとしてRJ-12を開発した。
RJ-12はWJ-1111とBACnet通信で接続され,これを各機器の近くに分散設置することにより,ゾロ引き配線を低減することができる(図3)。
図3 RJ-12の分散配置による省配線
3.2 RJ-12における分散設置に適した設計
以下では,3.1で述べた分散設置を行うことを目的としたRJ-12の設計の特長を述べる。
3.2.1 小型化
RJ-12を分散設置で各機器の近くに置く際に,制御盤内や動力盤などのわずかな空きスペースに設置するため,取付け面積および設置制約が少ない小型の製品であることが求められる。
RJ-12は,配線施工を考慮した端子形状および配列の検討と,寿命への影響を低減した部品配置の熱解析による検証を行うことにより,当社の従来製品よりもスリムな横幅50mmとし,取付け面積比で約30%小型化した(図4)。また従来製品は,製品の左右に各20mm,上下に各50mmの施工・メンテナンス用スペースを設けるという制約があったが,RJ-12は不揮発性メモリによる電池レス設計により製品左右のスペースは不要とし,上下のスペースも端子形状およびその配列の見直しにより35mmに低減した(図4)。
3.2.2 入出力ラインナップの最適化
RJ-12を分散設置で各機器の近くに置く際に,製品を小型化するとともに設備機器側の信号種別に合った入出力信号を持つ製品であることも求められる。
RJ-12のラインナップとして,空調機のインバータ制御アプリケーションに最適化した複合モジュールと,様々な入出力種別にソフトウェア設定のみで変更可能なユニバーサル入出力(UIO)モジュールを開発した。以下では各モジュールについて述べる。
図4 RJ-12と従来製品のサイズ比較
(1)複合モジュール
これまでの空調機制御用コントローラと設備機器との信号の取り合いの分析では,インバータ周波数設定信号(アナログ出力)とファン発停(デジタル出力)と故障状態(デジタル入力)が多くの計装に最適な組合せであることが分かっている。そこで,これらの信号を1つのモジュールに組み込んだ複合モジュール(アナログ出力+デジタル入出力)を開発した。これにより,複合モジュールを設備機器側の動力盤などに分散設置することによる「通信接続による配線コスト低減」(図3の右下)に加え,設備機器側のリレーや端子台が不要となることによる「分散設置による施工コスト低減」(図3の右上)を可能とした。
(2)UIOモジュール
従来製品は,設置後に入出力種別を変更するには,配線の引き直し作業や製品そのものの変更が必要であった。そのため,設定などにより入出力種別の変更が可能な製品が望まれていたが,これまで,信号種別毎の専用回路が必要になるため回路構成が複雑になり,特に小型の製品への適用が困難であった。
そこで,当社独自のユニバーサル機能を有するUIOチップ(1)を使用することで,シンプルな回路構成でユニバーサル入出力機能を実現し,アナログ入力(電圧,電流,測温抵抗体)・デジタル入力およびアナログ出力(電圧,電流)の各種信号に設定可能なUIOモジュールを実現した。
1モジュールに2点の入出力(電圧入力,電流入力の場合は最大4点)を備えており,ソフトウェア設定だけで入出力信号の変更が可能となり,現場作業の負担軽減に貢献できる。
3.3 端子台のねじレス化
従来製品の電源端子はねじ式端子台であったが,WJ-1111,RJ-12ではスプリング端子台を採用し,製品のすべての端子台をスプリング端子台に統一した(図5)。
これにより,前述したメンテナンススペースの削減に寄与するほか,配線施工時のねじ締め作業を不要とし,配線作業を効率化するとともに,メンテナンスにおいてもねじ端子の増し締め作業を不要とする。
また,制御盤内では,電源を渡り配線で接続することが多く,従来のねじ式端子台では,端子の共締めによる渡り配線を行っていたが,WJ-1111,RJ-12では,渡り配線専用の端子を設けることで,渡り配線を可能としている。
図5 電源端子台の構成
3.4 その他の施工上の考慮
制御盤全体でのコスト低減や分電盤や動力盤へ容易に追加設置できるようにするため, WJ-1111,RJ-12の電源は, AC100~240Vのワイド入力電圧対応とすることで, 外付けのトランスやスイッチング電源などの機器を不要とした。
4.空調機制御機能とVAV管理機能の一体化によるエンジニアリングの簡易化
オフィスビルの空調では,省エネルギーや快適性の向上を目的として,VAV方式の採用が主流となっている。VAV方式では,空調機とVAVとが連携して,給気温度最適化制御(ロードリセット制御)やファン回転数最適化制御などを実現している。
当社の従来システムでは,VAV管理用コントローラが複数のVAVコントローラの管理を行うとともに,空調機コントローラとの間で情報を受け渡すことで,空調機とVAVの連携制御を実現していた。しかしこの場合,受け渡しする情報の数に制約があり,複雑なVAV計装を行う場合には制約をオーバーしてしまい,コントローラを増設する必要があった。また,連携するコントローラそれぞれに正しく設定を行う必要があるため,エンジニアリングをする際の労力が多大となっていた。
この課題解決のため,WJ-1111では空調機制御とVAV管理の両方の機能を一体化し,VAV管理用コントローラを不要にしている。これにより,WJ-1111は,VAVコントローラを直接接続することができ,また,WJ-1111 1台で空調機とVAVの設定を行えるため,コントローラ間の受け渡しの制約を気にせずに連携制御を実現できるようになり,エンジニアリングの労力を低減することが可能となった(図6)。
なお,WJ-1111はオープンネットワークに対応したことにより,他社のBACnet MS/TP対応のVAVコントローラを接続し,空調機との連携制御を行うことも可能である。
図6 空調機とVAVの連携制御
5.既設建物の改修を考慮した設計
2020年の東京オリンピック・パラリンピック後には,バブル期(1990年代)に建築された建物の改修が多数計画されている。5章では,3,4章で述べた現場の作業工数低減に加えて,既設建物の改修を考慮した製品の特長を述べる。
5.1 サイズの互換性
既設建物の改修案件において,従来製品から新製品に置き換える場合に製品サイズが異なると,設置場所である制御盤などに変更が必要となり,新たな設計や施工工数がかかるため,製品サイズは同一であることが望ましい。一方,前述の空調機制御機能とVAV管理機能の一体化を実現するにはCPUやメモリ等の増強が必要であり, 従来製品よりも消費電力が増加する。
WJ-1111は,熱解析による,内部発熱分布を考慮した部品配置にすることで,従来製品の複数の機能を一体化しながら,従来製品と同一筐体サイズを実現した。これにより,既設建物の改修案件において,設置スペースを変更することなくコントローラを更新することが可能である。同時に,製品取付け位置を新旧製品で同一としたため,設置場所の新たな加工も不要とした。
5.2 入出力の互換性
WJ-1111は,入出力を担うI/Oモジュール部分RY51を従来製品と完全互換としている。3.で述べたとおり,従来製品では入出力信号をゾロ引き配線で行うことが多いため,信号配線の引き直しを行う場合には,多大な施工工数が必要となる。入出力部を現行製品と完全互換としたことにより,接続されている設備機器との配線接続を変更することなくコントローラを更新することが可能である(図7)。
なお,I/Oモジュールが交換周期を迎えていない場合には,ベーシックユニットのみをWJ-1111に変更することができるため,最低限の工数でコントローラの更新をすることが可能である。
図7 従来製品との互換性
6.おわりに
今回,建物のライフサイクルを支えるsavic-net G5を構成するジェネラルコントローラWJ-1111および小型リモートI/OモジュールRJ-12を開発したが,savic-net G5は現在も開発を継続している。特に,5章で述べた既設建物の改修に対して,旧システム部分と新システム部分を共存させるための各種インターフェース類の開発を行うことで,さらなる工数低減を図ることを計画している。
今後もsavic-net G5のラインナップを拡充し,建物のライフサイクルに応じた空調システムを継続的に提供するとともに,省エネルギーと快適空間の実現に貢献していきたい。
<参考文献>
(1) 加藤太一郎 他,ユニバーサル入出力ICの開発,azbil Technical Review,2018年4月号,pp.36-40
<商標>
savic-net はアズビル株式会社の商標です。
BACnetは,ASHRAEの商標です。
Modbus is a trademark and the property of Schneider Electric SE, its subsidiaries and affiliated companies.
<著者所属>
古山 香子 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発4部
石井 直樹 アズビル株式会社 ビルシステムカンパニー開発本部開発4部
この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2019年04月に掲載されたものです。
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