大口径流量計測制御機能付きバルブの流量計測精度向上技術
キーワード:調節弁,流量計測,流量制御,エネルギー管理,省エネルギー
空調システムの省エネルギーを実現する製品として、アズビルは流量計測制御機能付電動二方弁ACTIVAL+™を販売している。今回、大容量の空調機に対応可能な大口径モデルとして、海外向けに口径100A~150Aの製品を開発した。開発においては、アクティバルシリーズのメリットである小型軽量を実現しつつ流量計測精度の仕様値を満足させるために、プラグとステムの締結部構造およびねじれ開度補正の2つの技術開発を行った。本稿ではこれらの技術開発内容について報告する。
1.はじめに
現在,地球温暖化への早急な対策が求められている中,ビル・工場などの建物においてもエネルギー管理や省エネルギーの推進はますます重要となってきている。省エネ法ではエネルギーの管理基準を設定し,その状況の定期的な報告と,エネルギー使用に関する合理化目標に関し,その達成のため中長期の計画の作成と提出が義務付けられている(1)。
空調に関わるエネルギー削減の施策を検討し,施策の実施効果の検証をするには空調機ごとに熱量を計測することが重要となる。しかし,そのためには空調機1台につき流量計や熱量計などの計測機器を設置する必要があり,建物オーナーにとっては大きな経済的負担となる。
また,空調システムにおいて省エネルギーを実現するためには,熱源の搬送動力の削減が効果的である。そのためには,空調機周りの温度制御において,空調機の起動時や運転中の負荷変動があっても空調機に流れる冷温水の流量を一定にすることで,過流量を防止することが重要となる。
これらの問題を解決するため,空調機を流れる冷温水の流量を制御するコントロールバルブに流量計測,熱量計測機能を搭載した製品として,流量計測制御機能付電動二方弁ACTIVAL+(アクティバル プラス)を開発し,販売してきた。
近年は,特に中国,韓国,東南アジアのオフィスビル,病院,ショッピングモールなどにおいて,空調機の区画(ゾーニング)が広いために,大容量の空調機が使用される場合が多い。
そこで今回,大容量の空調機に対応可能な流量計測制御機能付電動二方弁ACTIVAL+の大口径モデルとして,海外向けに口径100A~150Aの製品を開発した。
図1 ACTIVAL+ 製品外観
2.製品概要と仕様
2.1 特長
本製品では,従来のコントロールバルブで行っている開度制御ではなく,コントロールバルブ自身が計測した流量を用いて流量制御が可能である。そのため,空調機の過流量を抑制することで,熱源やポンプなどの搬送動力を削減できる。
さらに,従来の開度制御では,配管内の圧力変動により空調機コイルを通過する流量が変化してしまい,室内温度が設定温度に追従しないケースがあったが,本製品の流量制御機能により,配管内の圧力が変動しても常に最適な流量を維持することが可能で,室内の快適性を向上できる。
また,コントロールバルブと温度,圧力,流量,熱量の計測機能を一体化したことにより,これらの計測器を追加することなく本製品だけでエネルギー管理が可能となり,省スペース化,および省施工化に貢献できる。
2.2 製品仕様
本製品の概略仕様を表1~3に示す。
表1 バルブ部 仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
形式 | 二方弁,フランジ接続形 |
本体圧力定格 | PN16(最高使用圧力1.6MPa) |
接続口径 | 15A~150A |
定格Cv値 | 1.0~350 |
クローズオフレイティング | 15A~80A:1.0MPa 100A,125A :0.5MPa 150A:0.4MP |
主要部材質 | 本体:鋳鉄 プラグ,ステム :ステンレス鋼 シートリング:強化PTFE グランドパッキン:無機繊維パッキン ガスケット:膨張黒鉛 |
許容流体温度 | 0~80℃(流体の凍結はないこと) |
流量特性 | 15A~80A:イコールパーセンテイジ特性 100A~150A:修正リニア特性 (流量制御は,イコールパーセンテイジ特性とリニア特性の選択が可能) |
レンジアビリティ | 100:1 |
弁座漏洩量 | 定格Cv値の0.01% (15Aは漏洩Cv値が0.0006以下) |
適用流体 | 冷温水 |
表2 アクチュエータ部 仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
取付場所 | 屋内,または屋外 (ただし屋外では屋外カバーを使用する) |
設置姿勢 | 操作器正立から90度横向きまで任意注1 (ただし屋外設置は正立のみ) |
動作時間 | 63s(50Hz)/53s(60Hz) ±5s |
手動操作 | 可(操作器の電源を切り,ジョイントの四角部をスパナなどで回転) |
開度指示 | 指針 開度0~100%(表示器にて開度,流量指示) |
ケース保護構造 | IP54(防塵・飛まつ保護) |
主要部材質 | ケース:アルミダイキャスト カバー:ポリカーボネート ヨーク:鋼板 |
電源電圧 | AC24V±15% 50/60Hz |
消費電力 | 8VA |
絶縁抵抗 | 5MΩ以上 DC500Vにおいて |
耐電圧 | 500V/1min (電源-ケース間) |
通信 | Modbus™RTU |
注1 バルブセンサ部が水平よりも下を向く姿勢にしないこと
表3 計測範囲と精度
項目 | 仕様 |
---|---|
最大設定流量 | 10~3500 (L/min) |
流量計測精度注2 | 15A(Cv1):±10%RD 15A(Cv2.5/6):±7%RD 25A~150A :±5%RD ただし最大設定流量の10%~100% |
圧力計測 | ±0.5%FS(0~1.6MPa) |
温度計測 | ±1℃(0~80℃) |
温度計測 | ±1℃(0~80℃) |
注2 流体温度7~17℃または45~65℃,配管内圧0.1~1.4MPa,差圧0.03~0.3MPaにおける精度
2.3 製品の小型軽量化
表3に示した流量計測精度を満足するためには,流量を調節するプラグの開度をポテンショメータで精度よく計測することが求められる(プラグ~ポテンショメータの構成は3.2参照)。プラグを本体の配管接続フランジ側(図2の矢印の方向)から入れてバルブ内でプラグにステムを挿入するサイドエントリー構造とすると,本体を小型・軽量にすることができる。しかし,プラグとステムの接続部には隙間があるため,プラグとステムの間に回転方向のがたつき(バックラッシュ)が発生する。したがって,プラグの開度とポテンショメータの開度読取り値に差異が生じてしまう。この課題を解決するために,図2のようにプラグとステムをピンで締結する構造とした。
一般にプラグとステムの軸中心位置がずれると摺動抵抗の増加や内部漏れ量の増加の要因となるため軸中心は一致していることが望ましい。プラグにピンを圧入したときのプラグの上部における変形量を有限要素法により構造解析した結果を図3に示す。図3に示すとおり,ピンから圧入荷重を受けたプラグの上面には最大42μmの変形が生じており,この変形がステムの傾きを引き起こし,プラグとステムの軸中心がずれることが分かった。
そこで,図4のようにプラグ上部のピン圧入部に逃げ形状を設け,ステムの傾きを防止する構造とした(ピン締結部の構造は特許出願済)。
図2 バルブ断面
図3 プラグ上部(ハーフモデル)の構造解析結果
図4 ステムの傾きを防止するためのプラグ構造
3.流量計測精度の向上技術
3.1 流量計測原理
配管内を流れる流量を計測する原理の1つに差圧式流量計測がある。この方式は,絞り部の前後差圧と絞り部の抵抗係数から計算で流量を求めるもので,一般に下記計算式に基づいて流量を算出できる(2)。
\(Q\):流量 \(C_v\):制御弁の容量係数
\(ΔP\):絞り部前後の差圧
制御弁本体部に搭載した圧力センサで計測された制御弁のプラグ前後差圧(バルブ絞り部前後差圧)と,電動操作器内のマイコンのメモリに記憶させた制御弁の各開度,差圧ごとのCv値から流量を算出している。
バルブ開度はアクチュエータ出力軸の開度計測用ポテンショメータで計測する。Cv値は,あらかじめ実験から求めた図6のような差圧ごとのCv値テーブルを用いて,任意の差圧とバルブ開度からCv値を決定している(3)。
図5 流量計測の原理
図6 Cv値テーブル
3.2 シャフトのねじれ
流体を閉止するためのシートリングや軸受とプラグの摩擦抵抗により,プラグを回転動作させる際にシャフトにねじれが生じる。ねじれが生じると,ポテンショメータで計測した開度と実際のプラグ開度との間に差異が生じ,流量計測精度が悪化する。特に口径が大きいバルブではプラグの径が大きいために摩擦抵抗が大きくなり流量計測精度の悪化が顕著である。また,ねじれ量を低減するためにシャフト径を大きくすると既存のアクチュエータとの互換性がなくなってしまう。このような課題を解決して表3の流量計測精度仕様を満足させるため,シャフトのねじれ角度を補正するアルゴリズムを考案した。
図7 シャフトのねじれ
3.3 ねじれ開度補正
ねじれ開度を補正するアルゴリズムを検討するために,ねじれの角度がどのように決まるのか分析を行った。
アクチュエータからシャフトに操作トルク\(T\)が加えられた際のシャフトのねじれ角度θは以下の式で計算できる。
\(θ\):ねじれ角度(deg) \(L\):長さ(mm)
\(G\):横弾性係数(N/mm²) \(d\):直径(mm)
\(T\):操作トルク(Nm):バルブを操作するのに必要なトルク
ここで,長さ\(L\),横弾性係数\(G\),直径\(d\)はシャフトの材質や寸法で決まる定数であり,既知の値である。一方,バルブを操作するのに必要な操作トルク\(T\)は製品の使用条件によって変化することは分かっていたが,具体的にどの程度の値となるか詳細は明らかではなかった。操作トルク\(T\)は以下の式のように4つの項で表せるため,それぞれの項を分析した。
\(T_0\):無負荷トルク(Nm):プラグ前後差圧\(∆P\)および内圧\(P\)がゼロの場合のプラグと他の部品との間の摺動抵抗によるトルク
\(T_1\):負荷トルク(Nm):プラグ前後差圧\(∆P\)によってプラグが他の部品に押し付けられることによる摺動抵抗増加分のトルク
\(T_{thrust}\):内圧トルク(Nm):バルブ内圧\(P\)によってプラグが他の部品に押し付けられることによる摺動抵抗の増加分のトルク
\(T_{flow}\):流体力トルク(Nm):バルブ内の流れによってプラグに作用する回転力
無負荷トルク\(T_0\)は,ステムとグランドパッキン間,プラグとシートリング間の摩擦が主要因であり2~4Nm程度である。
負荷トルク\(T_1\)と内圧トルク\(T_{thrust}\)は,流体の圧力条件によって変化するトルクであり,差圧\(∆P\)とトルク\(T_1\),内圧\(P\)とトルク \(T_{thrust}\)の関係は比例となる。実験結果を図8および図9に示す。これらの関係を用いて,製品に搭載した圧力センサで計測した差圧\(∆P\)と内圧\(P\)から,リアルタイムにねじれ量を推定して開度を補正できる(特許出願済み)。
図8 差圧\(∆P\)とトルク\(T_1\)の関係(実験値)
図9 内圧\(P\)とトルク\(T_{thrust}\)の関係(実験値)
次に,バルブ内の流れによってプラグに作用する回転力である流体力トルク\(T_{flow}\)の大きさを調べるためにCFD解析(Computational Fluid Dynamics:数値流体解析)を行った。
図10に解析に使用した口径150Aの3次元モデルを示す。解析モデルは上流側配管,下流側配管を含めたモデルとした。境界条件は入口側圧力\(P_1\)と出口側圧力\(P_2\)を与え,乱流モデルは標準k-εモデルを使用した。メッシュ数はおよそ400万である。
図10 解析モデル(150A,中間開度)
口径150A,バルブ中間開度(50%),バルブ前後差圧0.3 (MPa)の条件における流速分布と圧力分布を可視化したものを図11に,下流側から見たプラグ表面の圧力分布を図12に示す。流体が流れることで図11の方向から見て時計回りにプラグを回転させようとする力(流体力トルク\(T_{flow}\))が発生する。これは図11および図12のように,流体がプラグ絞り部を通過する際にプラグ表面のA部の圧力が他の部分より特に高くなっており,この不平衡な圧力分布がプラグを回転させる力となるためである。
流体力トルク\(T_{flow}\)の実験値と流体解析による計算値を図13に示す。計算値は,流体解析から得られたプラグ表面の圧力を積分することでプラグに作用する流体力トルクとして求めたものである。実験値と流体解析による計算値はよく一致しており,時計回りにプラグを回転させる力が発生し,その値は開度50%付近で最大となっていることが分かる。
図11 流体力トルク\(T_{flow}\)の解析結果(バルブ水平断面,左側が上流)
図12 プラグ表面の圧力分布(下流側からの視点)
図13 流体力トルク\(T_{flow}\)(150A,差圧\(∆P\)=0.3MPa)
以上の解析および実験結果から,式(2),式(3)および圧力センサで計測した差圧\(∆P\)と内圧\(P\)を用いてねじれ量を推定し,ポテンショメータで計測した開度を補正することが可能となる。
さらに,角度補正式の決定にあたっては,製品の個体差によるトルクのばらつきや使用中の水温変化によるトルクの変化,アクチュエータ内のギアのバックラッシュ分も考慮した。
以上で決定したアルゴリズムによって,ポテンショメータの角度測定値と角度補正値からねじれ量補正後のプラグ角度を計算し,流量を演算している(図14)。
図14 ねじれ開度補正と流量演算のアルゴリズム(点線枠内がねじれ開度補正部)
3.4 ねじれ開度補正の効果
アクチュエータにねじれ開度補正のソフトウェアを実装したバルブで,ねじれ開度補正の実証試験を実施した。図15の結果より,ねじれによる流量計測精度への影響が大きくなりやすい低開度領域において特に補正の効果が大きく,流量計測精度が向上していることが確認できた。
図15 ねじれ開度補正の検証結果(125A実験値)
4.おわりに
ACTIVAL+流量計測制御機能付電動二方弁
今後も快適性,信頼性,安全性の向上を図りながら,環境負荷低減への取組みを続けていきたい。
<参考文献>
(1) エネルギーの使用の合理化に関する法律,「法第14条」および「法第15条」
(2)「工業用プロセス弁-第2部:流れの容量-第3節:試験手順」, JIS B 2005-2-3:2004
(3) 古谷元洋, 大谷秀雄:流量計測・制御機能付きバルブの開発, Azbil Technical Review,2009
(4) 木下良介,古谷元洋,野間口謙雄:流量計測制御機能付きバルブの開発,計測と制御,第55巻,第2号,2016-2,pp.178-181
<商標>
ACTIVAL+はアズビル株式会社の商標です。
BACnetは,ASHRAEの商標です。
Modbus is a trademark and the property of Schneider Electric SE, its subsidiaries and affiliated companies.
<著者所属>
新谷 知紀 アズビル株式会社 バルブ商品開発部
松村 剛宏 アズビル株式会社 バルブ商品開発部
野間口 謙雄 アズビル株式会社 バルブ商品開発部
この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2019年04月に掲載されたものです。
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