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全館空調VAVシステム用集中リモコンの開発

キーワード:全館空調,きくばり,タブレット,集中リモコン,生活パターン,使いやすさ,省エネルギー,ユーザビリティテスト

全館空調システム「きくばり™」のVAV(Variable Air Volume:可変風量)システムにおいて、住宅内のどこからでも各部屋の温度、ecoモード、スケジュールの設定ができる市販のAndroidのタブレットのWi-Fi機能を使った「集中リモコン」を開発した。その結果、部屋を移動することなく設定を確認、変更するといったことに加え、外出、就寝などのライフスタイルに合わせて設定を自動的に変更することが可能となった。画面デザインの開発においては、ユーザビリティテストを実施し、ユーザーが使いやすく、視認性のよいリモコン画面を作ることができた。

1.はじめに

全館空調「きくばり」VAVシステム(1)では,部屋ごとの壁に取り付けた個室リモコンでそれぞれ温度設定をする。しかし,ある部屋の温度設定の変更をするためにはその部屋へ行く必要があり,ほかにも各部屋の温度設定を一覧で確認したいといった使い勝手の改善要求があった。

本開発により,ユーザーが1台のタブレット端末「集中リモコン」から各部屋の温度をいつでもどこでも設定,確認できるようになり,ライフスタイルに合わせて,各部屋の温度設定が時間帯ごとに自動で変更できるスケジュールタイマー運転も可能になった。また,各部屋の不在時や就寝時に自動で抑え目に冷暖房することが可能になり,省エネ効果も期待できる。

開発にあたっては,市販のAndroidタブレットやWi-Fiルータを利用したシステム構成とすることで,開発期間の短縮や低コスト化を実現した。また,画面デザインはユーザビリティテストを行い,ユーザーの使いやすさを追求した。

同時に,施工時に集中リモコンを活用し,VAVシステムの設定内容が一覧で確認でき,必要な設定が視覚的なインターフェースでできるエンジニアリングツールも開発し,施工,サービスの効率化も実現した。

以降,2章でシステム構成と設計コンセプト,3章で集中リモコンの機能を記述する。

図1 全館空調「きくばり」VAVシステム

2.システム構成と設計コンセプト

2.1 従来の「きくばり」VAVシステム

図2 従来の「きくばり」VAVシステム

各部屋の温度を,壁に取り付けた個室リモコンで個別に設定するシステムである。

2.2 「きくばり」VAV集中リモコンのシステム

図3 「きくばり」VAV集中リモコンシステム

従来のシステムにWi-Fiルータを追加し,市販のAndroidタブレットを専用化した「集中リモコン」と無線LANを接続する構成とし,各部屋の設定を行うことができる。

複数の室内機に対しては,V-LAN機能を有するスイッチングハブを追加することにより,最大4室内機を操作可能となる。

2.3 設計コンセプト

「きくばり」VAVシステムは,普段ユーザーの目に触れることなく静かに動いており,ユーザーの目に触れるのは,リモコンだけである。そのため,集中リモコンは本システムの「顔」として,システムの先進性を示す製品となることを目指し,下記のユーザーメリットを実現することをコンセプトとして設計,開発した。

(1)集中操作・管理による利便性の向上
VAVシステムの全機能を各部屋へ行くことなく1カ所で集中的に操作でき,各部屋の設定状況を一覧で俯瞰できる。

(2)多様なライフスタイルへの対応
各部屋の居住者のライフスタイルに合わせた設定,運転ができる。

(3)省エネルギー
不在時や就寝時に自動で抑え目に冷暖房するなど,居住者が意識しなくても省エネルギーが可能になる。

(4)ユーザビリティの向上
上記の機能を,説明書を深く読むことなく直感的に操作できる。

3.集中リモコンの機能

3.1 集中操作・管理による利便性の向上

ユーザーが,各部屋の温度を一度に設定したい場合の「一括設定」操作と,各部屋の設定をそれぞれ行いたい場合の「個別設定」操作に分け,それぞれにおいて各部屋の設定状況が一目で見てとれ,どこをどう操作すればいいかが簡単に把握できる機能を開発した。

3.1.1 一括設定

ユーザーからは,家族全員で外出する前に,まとめて家じゅうの設定を変更したいという要望があった。その機能=「一括設定」を備えた画面を,最初の画面として配置した(図4)。

この画面では,一括設定したい温度を中央に表示し,一括設定ボタンを配置し,その周囲に全部屋の温度設定をドットで表示した(これをインジケータと呼ぶ)。

ユーザーが簡単に設定変更できるよう,操作は温度を矢印で変更した後,一括設定(ターゲットボタン)をタップするだけとした。

図4 一括設定画面(暖房)

一括設定で変更されると,散らばって配置されていた各部屋の温度設定のドット(図5-1)が,ターゲットボタンに集まってくる(図5-2)というアニメーションを取り入れ,設定されたことが即座に視認できるようにした。

図5-1 一括設定前

図5-2 一括設定後

以上により,全部屋の設定温度が容易に確認できるので,設定より大きく外れた部屋の再設定により,暖めすぎ冷やしすぎの防止(省エネルギー)や,温熱環境の改善が見込まれる。

3.1.2  個別設定

現在の「きくばり」VAVシステムでは,各部屋の居住者が,各部屋の設定温度を個室リモコンで設定している。この場合,個別の部屋の温度設定がどうなっているかは,その部屋に行かないと分からなかった。そのため,設定温度が過剰であったり,空調が不要な部屋を空調していたりという無駄やムラが把握できなかった。

個別設定画面(図6)では,各部屋の温度設定が一覧画面で確認・操作できるので,家全体の空調管理がしやすくなり,家族がリビングに集まった時などにも,簡単に寝室や子供部屋を省エネ運転に切り替えられる。

画面上の操作としては,部屋名の部分をタップすることで設定部が展開表示され,温度設定上下ボタンにより温度設定値を変更するという分かりやすいインターフェースとしている。

図6 個別設定画面(冷房)

3.2  多様なライフスタイルへの対応

毎日の生活では,居住者のライフスタイル(生活パターン,起床・外出・帰宅・就寝などの時間帯)により,適した温度も変化する。その生活パターンに合わせて温度設定を変更するためには,従来のVAVシステムではその都度,ユーザーが行うしかなかった。そのため,本開発では,あらかじめ設定しておいた時間帯と設定温度にしたがって,自動で空調の温度を設定変更するスケジュール運転機能を持たせた。

スケジュール設定の方法は,起床・外出・帰宅・就寝の4つの生活イベントを設定し,曜日ごとに各イベントの時間帯と温度を設定するというインターフェースとした(図7)。

図7 スケジュール管理画面

このスケジュール機能を使えば,子供が学校に行っている月曜~金曜日の日中は子供部屋の空調を弱く設定しておくなど,ライフスタイルに合った省エネルギーがより簡単にできるようになる。

また,買い物や散歩など,短時間の外出で部屋を不在にする場合に,省エネ性を優先した運転をしたいという要望がある。その際に,1回のボタン操作で設定可能な「ecoモード」(設定温度を冷房時は2℃上げ,暖房時は4℃下げる)を設けた。

帰宅後は,このecoモード運転を解除するだけで,外出前の設定温度に戻すことができるので,簡単に,快適に過ごしながらもエネルギー消費を削減できる。

3.3 省エネルギー

前項のスケジュール運転を活用することで,在室時は快適に,不在時や就寝時は省エネ性を優先した運転を自動で行うことができるため,ユーザーが意識して設定温度を1日に何度も変更することなく,快適かつ省エネルギーな運転ができる。

例えば,省エネ法における「住宅事業建築主の判断基準」(2)にて定義された「部分間欠運転スケジュール」を,本システムのスケジュールとして設定した場合,図8にあるように,暖房運転時には,ユーザーが特に操作を行わなくても,従来の全館空調システムに比較して,在室時には快適な環境を実現しながら,約33%の省エネルギーが期待できる。

図8 VAV全館空調の省エネ性検証(文献(1)図10)

3.4 ユーザビリティの向上

設計コンセプトのユーザビリティ向上を実現するため,画面構成案を作った段階で,説明書を深く読むことなく直感的に操作できるかどうかを確認するため,ユーザビリティテストを実施した。

3.4.1 ユーザビリティテスト

30歳代~50歳代までの「きくばり」ユーザーとそうでない男性・女性を対象として,「きくばり」コントローラの使い方をあらかじめ説明していない状態で集中リモコンのプロトタイプを渡し,下記5つのタスクを実施してもらった。

それぞれのタスクにおいて検証した内容は以下のとおりである。

タスク1: ホーム画面の内容が理解できているか。

タスク2: 家全体の温度設定 / ecoモードおよび全部屋への一括設定を直感的に行えるか。

タスク3: 部屋個別の温度設定 / 一覧画面の内容が理解できているか。

タスク4: スケジュール設定を直感的に行えるか。

タスク5: スケジュール運転の停止を行えるか。

3.4.2 ユーザビリティテストの結果

前述の5つのタスクを実施し,その内容を検証した結果,以下のことを得ることができた。

・ 非言語によって示唆されるシステムの仕組みを,ほとんどのユーザーが正しく理解できなかった。

・ 学習によって違和感なく認識できるようになるアイコンと,そうでないアイコンがあった。

・ 操作手順やコントロールの表現が一貫していない箇所があり,ユーザーに誤解を与えていた。

・ システムの仕組みや状況を十分に理解できていなくても,基本的な操作は正しく完了できていた。

3.4.3 画面の改善例

上記のユーザビリティテストの結果を受け,画面の改善を行った。以下にその例を提示する。

(a) 改善例①【一括設定画面】

図9 改善前の一括設定画面

当初,図9のとおり,中央の円弧インジケータにより温度設定可能範囲や省エネ範囲を示していたが,ユーザビリティテストの結果,それを認識できたユーザーはあまりいなかった。

そのため,改善策として,個別設定中の部屋を表すドットをその設定温度に応じてインジケータの周囲に配置するようにした(図10)。

図10 改善後の一括設定画面

これにより,一括設定温度を中心として,ドットが右側に配置されるほど設定温度が高く,左側に配置されるほど低いことを示した。

また,中央の大きなドットを押すと,バラバラに配置されていたドットが中央に向かって移動し,ボタンの背後に隠れて消えるというアニメーションを使うことで,各部屋の設定温度が1つの温度(中央に表示されている温度)に一括設定されたことを示し,そのゆっくりした動きで,「暑い(寒い)と感じている家族に設定温度を寄せる」といった優しい管理を促すことができる。

(b) 改善例②【個別設定画面】

図11 改善前の個別設定画面

「VAV方式の空調システムにおける集中管理」に主眼を置く場合,各部屋が個別に設定されているかを素早く確認できることが重要と考えた。

そこで運転状況(スケジュール,エコなど)に代えて個別設定の切り替えスイッチを配置することにした。非言語によって示唆されるシステムの仕組みは,ほとんどのユーザーが正しく理解できなかったため,アイコンは廃止し,設定項目などは文字で明示した。

図12 改善後の個別設定画面

3.5 施工性・サービス性の向上

「きくばり」VAVシステムの施工の際に,機器の構成,接続などを設定するエンジニアリング作業が必要となる。これまでは,ユーザー用の個室リモコンを使用していたため,エンジニアリング作業には不向きな点があった。これを改善するため,エンジニアリング用アプリケーション「エンジニアリングツール」を併せて開発した。

図13 個室リモコン

設定,確認できる内容としては,

  • 結線順序入力(図14)
  • 設計システム構成コード入力
  • システム構成確認(図15)
  • システム構成設定
  • 温度/静音優先設定
  • エラー一覧
  • FWバージョンアップ
  • 管理コマンド実行
  • VAVレジスタ一覧
  • 設定温度と室温一覧(図16)
  • である。

この中のシステム構成確認画面(図15)では,「きくばり」VAVシステム全体の,接続VAV数,接続リモコン数やVAV通信状態,リモコン接続状態などが一覧表で見ることができ,不良箇所や設定ミスなどを容易に発見できるため,施工時の作業効率が図られている。

図14 結線順序入力画面

図15 システム構成確認画面

図16 設定温度と室温一覧

4.おわりに

今回開発した集中リモコンは,全館空調VAVシステム向けに特化し,ユーザーの住宅内で操作することに限定している。しかし,最近のネット事情を鑑みると,ユーザーの携帯端末から公衆回線を使い,外出先や勤務先からも操作するだけでなく,ユーザーの位置情報から自動的に操作を行うことも求められる。今後は,インターネット上などからユーザー端末にアプリケーションを提供し,クラウドなどのサービスを展開していくことを計画している。

クラウドサービスの導入により,アズビルが全館空調システムの稼働状況などをリモートで監視し,ユーザーへのメンテナンス提案にも活かせると考えている。

将来的には,日々のユーザーのライフスタイルによる設定値変更のデータやインターネットから得られる気象などのデータと連係させ,最適な温度設定の提案につなげたい。このことにより,全館空調システムの最適運転を実現し,さらなる省エネ性の向上を目指したい。

最後に,今回開発した集中リモコンは,全館空調システム「きくばり」とともに,2018年度のグッドデザイン賞を受賞することができた。

<参考文献>

(1) 森川,松浦,地下,小貝,上運天,田中, azbil Technical Review 2017年4月号, pp.57-63 「戸建住宅向け全館空調VAVシステムの開発」

(2) 住宅事業建築主の判断の基準におけるエネルギー消費量計算方法の解説,財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC),2009,p53

<商標>
「きくばり」はアズビル株式会社の商標です。
Wi-FiはWi-Fi Allianceの商標です。
AndroidはGoogle Inc.の商標です。

<著者所属>
羽場 照芳 アズビル株式会社 技術開発本部商品開発部
田中 裕造 アズビル株式会社 技術開発本部商品開発部
奈良 千尋 アズビル株式会社 技術開発本部商品開発部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2019年04月に掲載されたものです。