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全館空調システム きくばり™のウイルスや細菌への有効性

キーワード:飛沫感染,空気清浄,電子式エアクリーナ,換気,エアロゾル,空気感染

ウイルスの感染経路は、飛沫感染、接触感染、空気感染の3つである。このうち感染者が咳やくしゃみをすることで発生する粒径5μm未満の飛沫核が長時間浮遊し、室内または空調を介して移流し非感染者の呼吸器に到達するのを空気感染という。この空気感染を防止するための全館空調システム「きくばり」に搭載されている電子式エアクリーナのウイルスや細菌を含んだエアロゾルの除去の検証を行った。検証の結果、ウイルスの粒径での集じん能力から、電子式エアクリーナはウイルスや細菌にも有効であると考えられる。また、全館空調システム「きくばり」に搭載されている熱交換型換気装置により居住空間は「換気が悪い密閉空間」にはならないことが確認された。

1.はじめに

一般的に,コロナウイルスやインフルエンザウイルスのように呼吸器系に症状が認められる感染症の場合,感染源のウイルスは主に感染者の咳やくしゃみ等で生じる飛沫を介して環境中に放出される。密閉された空間や換気が不十分な空間では,ウイルスを含んだ飛沫が空気中を漂い,感染源になるといわれている。また,人間は飲食をはじめとして,様々な行為を通じて物質を体内に摂取している。この人体への物質摂取量は,8割以上が空気や排気が占めており,残りが飲料や食物となっている。その中で,室内空気は全体の57%を占めており室内空気の清潔度合いが重要であると言える。

以降,2章ではエアロゾルと空気感染について,3章では電子式エアクリーナの役割と原理について,4章では電子式エアクリーナの集じん性能について,5章では全館空調の換気について,6章では開発した加湿システムについて述べる。

2.エアロゾルと空気感染

2.1 エアロゾルとは

日本エアロゾル学会によると,気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体をエアロゾルと言う(3)。エアロゾルは,空気中に浮遊する粒子径が分子やイオンとほぼ等しい0.001μm程度から花粉のような100μm程度までにわたる広い範囲が対象となる(3)

2.2 空気感染とは

新型コロナウイルスは,直径0.06~0.14μmの球形で感染者の咳やくしゃみ,会話などで飛沫として放出される。この飛沫の5μm以上の大きさの飛沫は水分を含むため重く1~2m程度飛散し床面に沈着する。飛沫から水分が蒸発したのが飛沫核で(図1)これは5μm以下と小さく乾燥しているので長時間空気中に浮遊し空気の流れによって広範囲に飛散する。飛沫核は乾燥しているので,ウイルスは長く感染力を保てないといわれている。しかし,3つの「密」(密閉空間・密集場所・密接場面)では空間に湿気がこもるなどウイルスを含むエアロゾルが水分を保ち感染力を保った状態で,長時間空中を浮遊して感染するのではないかといわれている。

図1 飛沫と飛沫核

3.電子式エアクリーナの役割と原理

電子式エアクリーナの役割と原理について以下に示す。

3.1 電子式エアクリーナの役割

全館空調システム「きくばり」の構成を図2に示す。「きくばり」は,冷暖房と送風機能の室内機・空気清浄機能の電子式エアクリーナ・換気機能で構成されている。「きくばり」では室内の空気を循環させ,電子式エアクリーナにより家全体の空気をクリーニングし,粉じんを除去したきれいな空気を室内機に供給することで空気清浄を行っている。全館空調システムでは,最大1時間に3~5回クリーニングされたきれいな空気が室内機を通じて各部屋の吹出し口に供給されている。

図2 きくばりシステムの構成

3.2  電子式エアクリーナの原理

電子式エアクリーナの仕組みを図3に示す。

図3 電子式エアクリーナの仕組み

電子式エアクリーナは,電気式の集じん装置であり,粒子を荷電させクーロン力により捕集する方式である。電子式エアクリーナに取り込まれた室内の空気は,プレフィルタで直径約50μmより大きな粒子を除去する。通り抜けた直径約50μm以下の細かな粒子は,イオナイザ部の高電圧線により荷電され,後部にあるプラスとマイナスに分極した静電繊維でできた静電フィルタに吸着させる仕組みである。遠隔力であるクーロン力を利用するので一般的なフィルタよりも細かな粒子を除去することができ,大気微小粒子(PM2.5)を除去する性能がある。一般的なフィルタと電子式エアクリーナが除去できる粒子の大きさを図4に示す。一般的なフィルタが10μm程度までの粒子を除去するのに対して電子式エアクリーナは0.01μm程度までの粒子を除去する性能がある。

図4 粒子の大きさと除去範囲

4.電子式エアクリーナの集じん性能

電子式エアクリーナは,理論的な設計値として0.01μmまでを集じん範囲に設定した上で0.3μm以上の微粒子を除去できる性能を検証,確認している。確認の方法は,JIS B9908 2011形式1に準じ,自前の風洞試験装置を使用した「計数法」でワンパス(1回通過)での集じん効率の測定と日本電機工業会自主基準(HD-128)「家庭用空気清浄機の微小粒子物質(PM2.5)に対する除去性能試験及び算出方法」に基づいた第三者機関による試験を実施した。

4.1 ワンパス(1回通過)での集じん効率

ワンパスでの集じん効率は,2台の同じ型番の粒子計測器(パーティクルカウンター)を使用して,電子式エアクリーナの上流側と下流側の空気0.1cf(立法フィート:約2.83L)中に含まれる0.3μm以上の粉じん数を同時にカウントした。「計数法」は,それぞれの大きさの粉じん数を測定するため,粉じんの質量差で効率を計測する「重量法」よりも,小さな空気中に浮遊する粉じんを計測することに適している。「計数法」での集じん効率は下記式で計算される。

「集じん効率=1-下流側の粉じん数/上流側の粉じん数」 電子式エアクリーナを風洞試験装置に設置し,線香の煙により粉じんを発生させ,集じん効率の測定を実施した。

測定条件
・測定風量:14.6,22.5,29.6,35.1,40.7㎥/min
・測定回数:各風量にて5回
・粉じん数量:風洞実験装置の入口側で線香を焚き扇風機を弱風にして0.3μm以上の粉じんが20~30万個の間になるように調整

図5 ワンパスでの集じん効率

測定の結果,図5のように「電子式エアクリーナ」で標準的な流量30㎥/minにおいて0.3~5.0μm以上の粒子を70%~86%集じんするという結果が得られた。

4.2 集じん性能(PM2.5除去性能)

電子式エアクリーナのPM2.5除去性能について,日本電機工業会自主基準(HD-128)「家庭用空気清浄機の微小粒子物質(PM2.5)に対する除去性能試験及び算出方法」に基づいた第三者機関による試験を実施した。

測定条件
・ 測定室容積:21.8㎥(測定後,容積32㎥に変換)
・ 測定器:PM2.5デジタル粉じん計

タバコの煙を使用し,0.1~2.5μmの粉じんの質量濃度を測定する。図6に測定結果を示す。

図6 PM2.5除去率の時間変化

試験の結果,微小粒子物質(PM2.5)に対する一定の除去性能を有し,「0.1~2.5μmの粒子を99%除去する」という結果が得られエアロゾルの除去に有効であることが確認された。

5.全館空調システムの換気について

厚生省によると季節を問わず,新型コロナウイルス対策には,こまめな換気が重要といわれている。一般的なルームエアコンは,換気機能がないため密閉空間を防ぐには窓の開閉等による換気が必要となる。全館空調の「きくばり」の場合は,熱交換型換気装置を搭載しており,機械的に法定換気量分(2時間に1回家全体の空気を入れ替える分)の空気を入れ替えている。また熱交換型を採用し,排気される室内の空気から熱を回収して,新しく取り入れた外気に熱を移すので省エネルギーともなる。

また,「きくばり」の場合,1システムあたり換気量は120~180㎥/hなので家族4~6人と仮定すると,建築物衛生法における必要換気量(1人あたり毎時30㎥)を満たす設計となっており,「換気が悪い密閉空間」にはならないと考えられる。

6.エアワッシャー型加湿システム

アズビルの全館空調システムのオプションとして住宅全体の湿度を適切に保つ目的で,エアワッシャー型加湿システムを開発した。本加湿システムは,加湿ユニット内を清潔に保つために次亜塩素酸を発生させており,加湿空気による空間の浮遊ウイルス減少にも寄与できることが確認された。

6.1 加湿の仕組み

加湿システムは自動給水型の加湿システムで,加湿用水を噴霧した充填材に空気を通すことで加湿するとともに空気を水で洗う。加湿用水は加湿ユニット内に水道水を自動給水し,電解電極により次亜塩素酸(電解水)を発生させることで,細菌の増殖を抑制する効果が生まれる(図7)。

図7 加湿の仕組み

6.2 浮遊ウイルスに対する効果

JEM1467「家庭用空気清浄機」付属書D「浮遊ウイルスに対する除去性能試験」を参考に,加湿システムによる浮遊ウイルスの抑制性能を求めた。加湿システムから放出される有効成分を考慮し,初期(0分)のウイルス数を経過時間ごとのウイルス数で除した対数減少値を計測し,対象を差し引いた正味の対象減少値(減少率)を求めた。/pr>㎥

・ 試験空間:25㎥チャンバー
・ ウイルス: Escherichia coli phage MS2 NBRC 102619(大腸菌ファージMS2)
試験条件
・自然減衰:加湿システムを運転しない試験空間
・電解水噴霧:加湿システムを運転した試験空間
・水道水噴霧: 加湿システムは,運転するが電解電極は運転しない試験空間

試験結果を図8に示す。

図8 経過時間ごとの浮遊ウイルスの減少率

試験の結果,加湿システムで次亜塩素酸を発生させない水道水の場合は,自然減衰とほぼ同じ結果となったのに対して,加湿システムで次亜塩素酸(電解水)を発生させた場合は,浮遊ウイルスを99.99%以上抑制する能力があることが確認された。

7.まとめ

空気中を漂う細菌やウイルスの粒径は,5μm以上では重く落下するため0.1~5μm以下の粒径となる。電子式エアクリーナは電気式の集じん装置のため,測定結果より0.1~5μ mの粒子である細菌やウイルスの集じんする性能を有しており,ウイルスや細菌にも有効であると考えられる。また「,きくばり」での熱交換型換気装置での機械的な換気や開発したエアワッシャー型加湿システムを使用することで換気性が高く,浮遊ウイルスの抑制効果が高いことが確認された。

8.おわりに

これまでは空気環境というと,ホルムアルデヒドなどのシックハウス症候群を起こす物質やPM2.5・花粉などが対象であった。今回の新型コロナウイルスの世界的な流行や今後のインフルエンザの流行,より一層の高齢化社会が進むことを考えると,室内の空気環境をよりよくすることの重要性がさらに増すと考えられる。今後の検証・評価ではより一層ウイルスや細菌なども対象として実施するとともに,その時代の状況に合わせた空気環境を作り出す商品を開発する必要がある。

<参考文献>

(1) 岩田,azbil Technical Review 2013年4月号,P.82-86 「暮らしのさらなる安心・安全・快適を目指して~azbilハウスでの技術融合」

(2) 村上周三,臨床環境第9巻2号:P.46-62,2000 「住まいと人体」

(3) 日本エアロゾル学会「エアロゾルとは」最終閲覧日:2021年2月18日)https://www.jaast.jp/new/about_aerosol.html

(4) 大衛株式会社「エアロゾル感染とは」(最終閲覧日:2021年2月4日)
https://amethyst.co.jp/1432/

(5) 一般社団法人室内環境学会最終閲覧日:2021年2月18日)
http://www.siej.org/sub/sarscov2v1.html

(6) 厚生労働省ホームページ:新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)(最終閲覧日:2021年2月18日https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001. html#Q1-1)

<商標>

「きくばり」は,アズビル株式会社の商標です。

<著者所属>
石川 尚弘 アズビル株式会社 ホームコンフォート本部技術開発部
井口 俊丸 アズビル株式会社 ホームコンフォート本部技術開発部
田村 敦 アズビル株式会社 ホームコンフォート本部技術開発部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2021年05月に掲載されたものです。