巻頭言:持続可能社会とオートメーション
村上 周三
Shuzo Murakami
財)建築環境・省エネルギー機構 理事長
President
Institute for Building Environment and Energy Conservation
人類の生産活動の主役が農業,工業,情報と変化するとともに,経済活動のメイン舞台も農地,工場からオフィスへと変化してきた。オートメーションはデジタル技術の支援を受けて,ファクトリーオートメーション,オフィスオートメーションなどの形で上記の生産活動の各分野に導入され,労働環境の改善や生産効率の向上に多大な貢献を果たしてきた。
20世紀の大量生産,大量消費文化の副作用としての地球環境問題の深刻化を受けて,人類は次のパラダイムを探ってきた。その結果として農業社会,工業社会,情報社会の次に,持続可能な開発を目指す社会(以降,持続可能社会)が位置づけられるに至った。本稿では,持続可能社会に向けて,オートメーションの果たすべき役割やそれがもたらす新しい価値創出について述べる。
持続可能社会における産業経済活動を支える原動力として,また産業経済が保全,育成すべき資本として次の6つが指摘されている。
1 製造資本 2 財務資本 3 知的資本
4 人的資本 5 社会関係資本 6 自然資本
20世紀の企業経営は主として1の製造資本と2の財務資本をベースに運営されてきた。したがって当時のオートメーションは,知的資本を活用した製造資本の効率化による財務資本の増加を目指したイノベーションと位置づけられ,この定義が現在も主流として残っている。
アズビルでは創業時から,オートメーション推進の目的の中に,生産効率の向上だけでなく労働環境の改善がもたらす労働者の福祉改善を掲げてきた。これは企業運営で通例留意される前述の3つの資本に加えて,4の人的資本に早くから着目していたということを意味する。オートメーションによる価値創出を一層豊かにするもので高く評価される姿勢である。近年社員のウェルネス重視は持続可能社会における経営戦略の基本的事項となってきているが,アズビルのこの面での実績は先導的である。
今回の特集のテーマは「新しい働き方を支援する“人を中心としたオートメーション”」である。オートメーションに対しては,作る人,働く人,使う人,メンテナンスする人,経営者,自治体,コミュニティなど様々なプレイヤーが参加している。したがって「,人」は「働く人」に限定せず幅広く位置づけることが推奨される。オートメーションはこれらの幅広いプレイヤーを組み込んでデザインされるべきであるという立場に立てば,オートメーションの構成要素に5の社会関係資本も加わることになる。この立場に立てばオートメーションの推進における社会貢献の視点が一層明確になる。
前述のように,現在の文明のパラダイムは持続可能な社会を目指す運動であると位置づけられ,オートメーションも当然このパラダイムを反映すべきである。したがって,オートメーションを構成する要素に6の自然資本が加わるのは当然のことになる。オートメーションはスタートの段階から省エネルギー,省資源に貢献してきたが,持続可能社会におけるオートメーションには,より幅広く外部不経済の最小化を実現する枠組みを備えることが求められる。このような動きを産業経済において具体化するグローバルな枠組みとして,ESG(環境,社会,ガバナンス)やSDGs(Sustainable Development Goals,持続可能な開発目標)を指摘することができる。両者とも経済,社会,環境分野への統合的な貢献を目標としており,金融分野,産業分野の指導的理念となっている。今後のオートメーションは, ESGやSDGsの運動を離れては存在しにくいということができる。
オートメーションは労働環境改善や経済成長等に多大な貢献を果たしてきた。しかし持続可能性を追求する社会において,オートメーションは従来に勝る幅広い役割を果たすことが求められている。現在進行中のニューノーマルへの移行に際しても,3密回避の計画等においてオートメーションの活躍に期待するところは多い。次世代のオートメーションは前述の1から6の資本の形成に貢献する姿勢を明示的に示し,持続可能社会の構築に貢献できる構造を備えたものにすべきである。次世代のオートメーションの先導的理念がアズビルによって確立され,それらが実践に移されることにより,経済・社会・環境の各分野における幅広い貢献が実現されることを期待する次第である。
著者紹介:
1985年 東京大学 生産技術研究所 教授(~2001年)
1999年 デンマーク工科大学 客員教授(~1999年)
2001年 慶應義塾大学 理工学部 教授(~2008年) 2003年 東京大学 名誉教授
2003年 建築環境・省エネルギー機構 理事長(現職) 2005年 日本建築学会 会長(~2007年)
2008年 建築研究所 理事長(~2012年)
2015年 新国立競技場整備事業の技術提案等審査委員会 委員長
この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2021年05月に掲載されたものです。
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