特集に寄せて

アズビル株式会社
取締役執行役員専務
横田 隆幸

オートメーションをめぐる技術や製品は,今日まで社会の様々な変化を受けて高度化・多様化してきました。その中でも急速な技術革新やロボットの導入等により,人と機械の融合が進み,さらにコロナ禍対応を契機として,新しい働き方など社会ニーズの変化に対応したDX対応等,求められる技術も大きく進化を遂げています。その一方で,これらの進化の根底にある,正確に測るという基本概念は,よりハードルが高くなることはあっても,本質が変わることは決してありません。

アズビルの技術の基本は「計測」「制御」であり,優れた最先端の計測技術を持っているということを我々は自負しています。これらは「当然のことながら」「正しく測る」という技術がなければ始まりません。このアズビルの技術力へのゆるぎない信頼を築く原点が,計測・計量における厳しい「基準」に合致した校正,即ち計測標準への取組みです。技術力の進化と合わせて「,計測技術と計測標準の両輪こそが,“正しく測る”ことを追求するアズビルのモノづくりの原点」=「企業価値の原点」と言えると思います。

今回の特集テーマ,「モノづくりの原点“正しく測る”ことへの挑戦」,への執筆に際して,人文系出身の筆者は当初,大いに戸惑いました。手がかりを求めて計測標準部門のメンバーにインタビューした機会にきわめて印象的だったことは,メーカーの「技術部門のCSR部隊」ではと感じさせる程の熱い思いを彼らが一様に伝えてきたことです。計測トレーサビリティを維持することが,国家標準,国際標準に繋がっているという観点から,「正しく測る」ことを責務としている彼らが口を揃えて言及したのが「測れないものは作れない」ということでした。この厳しい一貫した哲学がアズビルの企業風土に根付いていることに深い感銘を受けました。

そこで,計測標準の取組みや「正しく測る」ということを社会的に見て,どういう意味があるかを少し考えてみました。社会が求める厳格な基準に沿って,信頼できる計測機器・サービスがあってこそ,どんな時代でも「安全,安心,さらには快適」な環境や機能を,生活や社会活動において確保することができます。そこに組み込まれたアズビルの技術力・サービス力が評価されることは,まさに我々が目指す「人を中心とした」視点から社会的な価値を生み,持続可能な社会への貢献へと繋がっていると解釈できます。

また,社会のニーズが目まぐるしいスピードで変化し,日々多様化していく中で「,正しく測ることへの挑戦」自体は,より高度化する製品ニーズに対応するために求められることです。限界への挑戦は続きますが,この挑戦が新たな技術や製品開発を支えることになります。さらに「,製品・品質」という観点で,計測して品質を保つということは,メーカーの命綱であり品質維持は社会的責任でもあります。「正しく測る」ということは,我々のコンプライアンスに,まさに直列に繋がる,いわば「技術面からのCSR活動そのもの」です。

2021年は,企業の品質問題がCSRの観点からも,大きく取り上げられました。不祥事を起こした某大手電機メーカーの第三者による調査委員会からの提言の第一に「手続きにより品質を保証するという,品質に対する正しい考え方の徹底」とあり,厳しい基準や手続きをクリアしていく当然のことが,「モノづくり」の基本に求められると指摘されています。 azbilグループのCSR推進を日々担当する筆者の目から見ると,社会のモノづくりの現場において,計測器が正しく測れなければ,製品の品質や安全性は確保できず,品質面での重大な欠陥を生みだしかねません。だからこそ当社自体のモノづくりにおいて不正や妥協等によりゆがめられることがあってはなりません。そして「外部からの評価,厳格なルールに真摯に応え,結論を「データから得られる事実に基づき」解を出すという自らへの「挑戦」は,社会のあらゆるステークホルダーから求められる客観的かつ先進的な基準で堂々と勝負することです。これは,まさに崇高なCSRを希求する精神・倫理観と同じ意味を持っていると感じます。

azbilグループは,計測と制御を中心としたオートメーション技術で,人々の安心・快適・達成感を実現するとともに,地球環境に貢献し,社会からの高い信頼を獲得してきました。これからも新しい技術と技術標準に挑戦し続け,お客さまに安心と達成感を感じていただくことを喜びとする企業集団であり続けたいと考えています。そして「人を中心としたオートメーション」の理念に基づく,「測れないものは作れない」というCSR本来の倫理観による発想を,さらに一歩進めます。多様化する社会的ニーズを多角的視点から見て,専門技術のみに頼るだけでなく人間の行うことだからこそ,自由闊達な発想でさらなる課題発見につなげます。この「技術とリベラルアーツ」の両輪で「課題発見力に富み,正しく測るために,常に課題克服に向け挑戦する組織」でありたいと思います。

今回の特集をご覧いただき,azbilグループの「世界トップレベルの計測技術者集団」を目標にした「世界No.1に向けた挑戦」の粉骨砕身の様々な挑戦の軌跡や,プロの職人らしい真摯な取組み・発想についてのご理解を深めていただければ幸いです。

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2022年04月に掲載されたものです。