小型デジタル指示調節計

互換性を維持しながら性能向上した形 C1M,高精度・高速制御を実現した形 C1A

1.はじめに

2003年リリースの前モデルデジタル指示調節計SDC 形 C15は,多機能を小型筐体で実現し,PCツールを活用して装置設計や設定工数を削減するコンセプトが評判となりヒット商品となった。

20年の節目に,重要性能指標である指示精度とサンプリング速度を向上させた形 C1A,簡単にSDC 形 C15から交換でき,かつPV(Process Value:現在値,測定値)表示が見やすい形 C1Mを開発した。

2.製品概要

形 C1Aは,指示精度やサンプリング周期など基本機能の高性能化に加え,背面端子配線を外さずにケースから本体引き抜き可能なドローアウト構造,周囲温度の影響を低減した設計,ヒーター保守・監視機能,熱電対・測温抵抗体・直流電流/電圧入力に対応したフルマルチ入力などの要望に応え,高い保守性を実現した製品である。

形 C1Mは,SDC 形 C15との互換性(形番構成,端子配列,パラメータ,通信アドレスなど)があり,置き換えが容易である。またPV表示を大型化して視認性を高めた。

3.製品特長

3.1 高精度・高速制御

正確な温度管理や制御を実現するため,回路構成やレイアウトの新規設計と全部品見直しを行い,指示精度(SDC 形 C15:±0.5% FS)を以下のとおり向上させた。

形 C1M:±0.2% FS(測温抵抗体,直流電流/電圧入力)
     ±0.3% FS(熱電対入力)

形 C1A:±0.1% RD(熱電対,測温抵抗体入力)
     ±0.1% FS(直流電流/電圧入力)

また,低ノイズ高分解能ΔΣ方式ADコンバータ採用とPV値取得タイミングの制御により,商用周波数ノイズ耐性維持と高速サンプリング(形 C1M:50ms,形 C1A:25ms)を両立させた。なお,様々な装置事情に対応できるようサンプリング周期は最大500msまで可変とした。

3.2 視認性・デザイン性

形 C1Mは,現場での視認性を高めるため,文字縦横比や線幅バランスが良く高コントラストな白色LCDの大型文字(文字高さ15.4mm)でPVを表示した。

形 C1Aは,情報量と視認性を両立させるため,4.5桁表示により高分解能対応し,マルチステータス表示灯など表示項目を増やし,文字間に十分なスペースを確保するとともに理想に近い縦横比の文字とした(図1)。

図1 前面表示(左:形 C1M,右:形 C1A)

3.3 スマートローダパッケージ 形 SLP-C1F

無償エンジニアリングツール 形 SLP-C1Fには,パラメータ設定,数値・トレンドモニタなどの従来機能に加え,省エネ効果や調整工数低減を目的としたPIDシミュレータを標準搭載した(図2)。

図2 PIDシミュレータの操作例

3.4 設定互換性

形 C1Mは,機種変更作業の負担低減を目的として,SDC 形 C15の形番構成,機能,設定パラメータ,通信アドレス,端子配列を踏襲した。また,形 SLP-C1Fを用いて,SDC 形 C15のプロジェクトファイル,または直接通信で読み出したSDC 形 C15用パラメータを,シームレスに形 C1M用パラメータへ変換できる。

3.5 PLCリンク機能

形 C1M/形 C1Aが31台以下の小~中規模装置の新設や変更時エンジニアリングコスト削減のため,RS- 485通信モデルにプログラムレスでPLCとのデータ授受を実現するPLCリンク機能を搭載した(図3)。

図3 PLCリンク

3.6 ステップ運転・パターン運転

きめの細かい温度プロファイルで複数のレシピを実現できるよう,形 C1Mは上位機種にのみ搭載していたステップ運転を搭載した。8ステップそれぞれに,SP値,PID組,勾配,保持時間の設定が可能である(簡易パターン運転の16セグメント相当)。

図4 形 C1Aパターン運転によるSP生成

形 C1Aの拡張データメモリモデルでは,最大8パターン×16セグメントのパターン運転機能を搭載している(図4)。各セグメントにはPID組番号,ギャランティソーク,セグメントイベントを設定でき,停電復帰機能により停電前のパターン番号,セグメント番号,サイクル残り回数,セグメント経過時間からの復電動作が可能である。形 C1M/形 C1Aともに勾配表示部によりランプ/ソーク状態を確認できる。

3.7 ヒーター保守・監視

ヒーター断線/短絡/過電流といった異常や電流値測定のため,形 C1M/形 C1AではCT(カレントトランス)入力モデル,形 C1Aでは10A以下の小容量ヒーターを対象とした微小CT入力モデル,ヒーター抵抗値監視が可能なCT/VT入力モデルを選択可能である。VT(ボルテージトランス)電圧とCT電流を真の実効値計測により得たヒーター抵抗値監視から電気炉のヒーター寿命劣化を診断できる。イベント機能や論理演算機能により,ヒーター抵抗値を条件とした警報出力も可能となる。

3.8 周囲温度の影響低減

装置の使用環境や設計制約緩和を目的に,アナログ入出力回路の温度特性を向上し,基準温度条件(SDC 形 C15:23±2℃)を25±3℃,動作温度条件(SDC 形 C15:0~50℃)を-10~+55℃へ拡張した。

4.おわりに

形 C1Mと形 C1Aの概要と特長を紹介した。装置設計や保守における深刻な人材不足・スキル不足といった課題に対し,既設機種との互換性が高く,PLCリンク,SLP,ステップ運転・パターン運転,ヒーター保守・監視などの機能を持ち高性能な調節計は有効な解決手段となる。

<商標>
SDCはアズビル株式会社の商標です。

<著者所属>
長嶋 直紀 アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニーCP開発部

この記事は、技術報告書「azbil Technical Review」の2024年04月に掲載されたものです。