従来難しかった30㎖/min以下の微小液体流量を高精度に計測する流量計
熱式微小液体流量計 形 F7M
アズビルはごくわずかな量の液体の流量を正確に計測する熱式微小液体流量計 形 F7Mを開発しました。産業機器や半導体製造装置などの分野でニーズの高かった30㎖/min以下の流量を±5%RDという高い精度で計測できるのが特長です。アズビルが得意とするMEMS技術を用いて開発したセンサパッケージと熱式気体流量計・電磁流量計にて培った流量計測ノウハウを組み合わせて高い精度と汎用性を実現しています。
背景・ニーズ
液体の微小な流れの量を正確に把握
点滴のようなごく微量で流れる液体の流量を正確に測定したいというニーズは、産業界に広く存在しています。具体的には、リチウムイオンバッテリーの製造工程における電解液の注入、半導体製造におけるフォトレジスト液の塗布、生化学検査などにおける試薬の混合や希釈、特殊な液剤の噴霧、洗浄薬液の混合、といった用途が挙げられます。
市場には様々な計測方式(コリオリ式、超音波式、熱式など)の「液体流量計」が実用化されていますが、計測可能な流量範囲、精度、温度特性、振動の影響、サイズ、使用可能液種など、それぞれに一長一短があることが知られています。なかでも数十㎖/min程度[*1]の流量範囲は技術的に計測が難しいこともあり、実はこれまで市場ニーズを満足させる商品がほとんどありませんでした。
[*1]微小流体のイメージとして取り上げられることの多い点滴を例にとると、成人用ルートで20滴≒1㎖なので、1秒間に1滴のペースで落とした場合で流量は1分間に約3㎖(約3㎖/min)、1秒間に3.3滴というやや速めのペースで落とした場合で流量は1分間に約10㎖(約10㎖/min)となります。
アズビルはお客さまのニーズを具現化しようと、30㎖/min以下の流量を高精度に計測する熱式微小液体流量計 形 F7Mを2017年12月に製品化しました(図1)。
図1. アズビルが開発した熱式微小液体流量計 形 F7M(白いパイプが流路の入り口(左)と出口(右)、黒い線は電源および信号線)
開発のポイント
温度差を維持するために必要な電力消費から流量を計測
流体の流量計測には冒頭で述べたようにいくつかの方法がありますが、形 F7Mでは従来は液体流量計測には適用が難しかった「熱式計測方式」を採用しています。
まず、上流側の温度センサで液温を計測します。次に、この液温に対して、一定の温度差となるように、下流側のヒーターセンサに電力を印加し表面を発熱させます(図2)。
図2. 形 F7M用にアズビルが開発した熱式の原理
液体の流速が速いほど流体に奪われる熱も大きくなるため、一定の温度差を維持するにはヒーターセンサへの印加電力(発熱量)を多くしなければなりません。逆に流速が遅ければ奪われる熱も小さくなるため、一定の温度差を維持するための印加電力は少なくて済みます。つまり、ヒーターセンサに与える電力から間接的に流速が求められることを意味し、さらに流速と管の断面積から流量が求められます。
このような計測方式は気体の流量計測では従来用いられてきましたが、液体に適用しようとすると、センサが流体と接触するため、液温センサおよびヒーターセンサを何らかの方法で封止して保護と絶縁を図らなければなりません。そのため、封止材料を腐食させない液種しか流せなくなるほか、封止材料を原因としたコンタミネーション(汚染)が下流側に生じないことを保証しなければなりません。こうした理由により液体に使われることはこれまでほとんどありませんでした。
アズビルはこのような課題に対して、図3に示すように、石英ガラス管の外側に液温センサとヒーターセンサを熱的に密着させる技術を開発し、石英ガラスを通じて上流の液温を計測したのち、下流では石英ガラスを介して液体に熱を放散し、一定の温度差の維持に必要な電力から間接的に流量を計測できるセンサ構造を開発しました。
図3. 形 F7Mに内蔵されるセンサパッケージ
石英ガラス管とセンサチップの接着技術を確立
ここで鍵となったのが、円筒の石英ガラス管、平面の液温センサおよびヒーターセンサとの密着方法です。熱抵抗をできるだけ抑えるとともに、センサチップに機械的なストレスが及ばないようにする必要があり、アズビルでは様々な接着方法を検証しました。最終的に、石英ガラス管の円周部の一部を平面状に切削するとともに、特殊な接着剤を一定の厚さにコントロールし接着する製作方法を確立しました(図4)。
また、制御用のマイコンなどが搭載されたメイン基板との接続にはフレキシブル基板を採用。液温センサおよびヒーターセンサとフレキシブル基板とは機械的に固定せずボンディングワイヤーにて電気的な接続のみとすることで、両センサチップに機械的なストレスが及ばないように工夫しています。
なお、一定の温度差を維持するようにヒーターセンサのエレメント表面がわずかに発熱しますが、発熱のほとんどは石英ガラス管に伝わり、流体の温度上昇は極めてわずかであり、液体の物性や品質に影響を与えることはありません。
液温センサおよびヒーターセンサは、気体用マイクロフローセンサの開発で培った熱式流体計測のノウハウとアズビルが得意とするMEMS技術を用いて開発されており、薄膜ダイアフラム構造を形成し、低消費電力でセンシングが可能となっています(図5)。
図4. 石英ガラス管とセンサチップとの接着方法を示した模式図
図5. MEMS技術を活用してコンパクトなセンサパッケージを開発
成果と今後の展望
流量範囲の拡大やさらなる改良に取り組む
これまで30㎖/min程度までの微小液体流量計は使いやすく高精度な製品がなかったこともあって、形 F7Mは2017年12月に発売して以来、産業系や半導体製造装置分野のお客さまから好評を博しています。
今後は同じ計測方式を応用し流量レンジラインアップの拡充を計画しています。また、現在は石英ガラスを腐食させてしまうフッ化水素酸や強リン酸などの液種にも対応できるようにバリエーションの追加にも努めていきます。
形 F7Mは30㎖/min程度の流量を対象にした微小流量計としては世界のトップクラスを走っているとアズビルでは自負しており、今後もお客さまが必要とするソリューションの開発と商品の提供に努めていきます。